「モ〜1杯」牛乳を! 畑中三応子 食文化研究家
2020.07.06

休校による学校給食の停止と外食産業での需要の落ち込みで、行き場がなくなった牛乳の消費を推進する「プラスワンプロジェクト」を農林水産省が立ち上げたのは4月21日。ホルスタインの着ぐるみをまとった牛乳乳製品課の職員が、牛乳やヨーグルトを普段より「モ〜1杯(本)」多く買ってほしいと呼びかける動画は好感度がとても高く、評判になった。
その前から牛乳を応援する声は広がっており、古代の乳製品「蘇」、インド風ヨーグルトドリンク「ラッシー」、片栗粉で固めた「ミルク餅」など、牛乳を大量消費できるレシピの数々がSNSをにぎわせた。(写真:1947年創業の東京「銀座ウエスト」はバタークリームを使ったケーキが常時3、4種あり、根強い人気=筆者撮影)
日本人が牛乳を飲むようになったのは明治以降と思われがちだが、古代には酪農文化があった。蘇はその頃に製造されていた日本固有の乳製品。生乳を固形状になるまで10分の1程度に煮詰めたもので、長期保存ができる。
関東から九州までの各地には官営牧場が設けられて蘇を税として納める「貢蘇」の制度が確立し、平安時代まで貴族のあいだで愛用されていた。
武家社会になってから牛乳は利用されなくなり、すっかり忘れ去られていた蘇の復活は、思わぬコロナ効果だった。焦げないよう付きっきりで混ぜ、完成には長時間かかるので、巣ごもり向きのレシピだといえる。栄華をきわめた平安貴族の藤原道長も好んだというだけあって、乳糖由来の自然で上品な甘みがある。
一方、業界団体のJミルクが4月と5月に行った調査では、ヨーグルトを食べる回数は増え、その理由は「免疫力・抵抗力強化」と答えた人がいちばん多かった。
国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報サイトによると、残念ながら現時点でヨーグルトには新型コロナウイルス感染症に対する効果は確認されていない。ただ、ヨーグルトに含まれるプロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)が体によいことは明らかにされているので、ぜひ続けたい習慣だ。
全国で品薄になってしまったのがバター。外出自粛で洋菓子の手作りが流行したり、料理に使う頻度が増えたりと、家庭用バターの需要が例年同時期の1・5倍になり、供給が追いつかなくなった。
バターは長いあいだ、カロリーが高くて太る、コレステロールを増やして心臓病や動脈硬化など生活習慣病の原因になると考えられていた。しかし現在、乳脂肪は体のなかで燃焼されやすく体脂肪になりにくいことと、心血管疾患に対しては影響がなく、むしろ予防的に働くことが分かってきている。
米国では数年前、バターを最強のヘルシーフードとして推奨する健康本がベストセラーになり、日本でも翻訳書が注目された。いまコンビニでカップ入りが買える「バターコーヒー」は、その本で紹介されて普及したものだ。
ダイエットの大敵ではないことが知られるにつれてバター人気はじわじわ上がり、目下スイーツ界ではバタークリームのケーキが静かなブーム中。グルメ雑誌のバター特集も目立って増えている。
蘇が話題になったりバターが不足したりと、新型コロナはあらためて牛乳と日本の食生活との深いかかわりを感じさせた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年6月22日号掲載)
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