新型コロナで花の産業構造が変わる 業務用の需要が蒸発、長期化の恐れ
2020.07.01
新型コロナウイルスの感染拡大は、2月のバレンタインデーの時期から始まり、3月の卒業式、4月の入学・入社式、5月の母の日まで、花の最盛期とぴったりと重なった。東京五輪・パラリンピックに向けて準備を積み重ねてきただけに、開催の1年先送りのダメージは深刻だ。
営業自粛で業務用の需要がごっそりと消滅しただけでなく、緊急事態宣言が解除された後も結婚式などの延期が相次いでいる。「需要の蒸発」は長引きそうだ。
生産者だけでなく、フラワーショップ、輸入業、市場関係者ら花関連産業全体が苦境に陥っている。特に輸入業者は農林水産省が実施する緊急対策の対象に含まれず支援が乏しい。日本市場を失った海外の生産者も大打撃を受けている。
(花の流通の中核的機能を果たしている東京都の大田市場花き部)
ビタミンF
東京五輪・パラリンピックでのビクトリー・ブーケの提供を目指すために組織されていた「日本花き振興協議会」は、政府の緊急対策である「花き卸売市場における生販連携機会の創出事業」に参画し、全国7カ所の卸売市場を拠点に、「日常に花のある素晴らしさ」 「みどりの癒し」を訴えている。通常は5月第2日曜日だけの「母の日」を、1カ月間を通じて感謝の気持ちを伝える「母の月」と位置付け、家庭の需要を持続させた。
「一般社団法人 花の国日本協議会」は、自宅で過ごす時間が長くなっていることに着目し、在宅勤務中に身近に花やグリーンがあることの有効を訴えるため、「植物のちから」を「#ビタミンF」と名付け、個人向けの「フラワー(切り花)」「グリーン(観葉植物)」「ガーデニング(園芸)」「ギフト」の販売促進に乗り出している。
行き詰まる高級化
緊急事態宣言が解除された後も、需要の早期回復は期待できず、花関連の産業は市場構造の変化という第二段階の課題に直面している。業務用の高級品の需要が減る一方、将来輸入が再開すれば、国産の普及品は安い輸入品との厳しい競争を迎える。
(家庭向けの需要の掘り起こしが課題だ)
今のところ、バラ(マレーシア)、カーネーション(コロンビア)などの輸入が停止しているため、平均価格が上昇して相場が回復しているようにみえるが、高級品を値下げするだけの単純な戦略では、課題を解決できない。
(大田市場の内部、ここで競りが行われる)
これまでは、付加価値の高い高級品を少量・多品種生産し、それぞれに特化した産地が育ってきた。東京五輪・パラリンピックでこの傾向が加速するかと思われたが、発想の転換を迫られそうだ。
農業分野では、花だけでなく和牛や果物のように富裕層や業務用を相手にした高級化で成長を目指す動きが強まっていた。花の関連産業の構造転換が成功すれば、他分野にも共通した普遍的な課題解決のモデルを提示できるだろう。
(本文・写真 共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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