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首相に期待したい自国民ファースト  小視曽四郎 農政ジャーナリスト

2020.06.29

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首相に期待したい自国民ファースト  小視曽四郎 農政ジャーナリストの写真

 新型コロナウイルス感染の恐怖の中で治療にあたる医療従事者らとともに、農家など日常生活を維持する職業の人たちに「エッセンシャルワーカー」として感謝する光景が欧州などで目立つ。

 トランプ米大統領も「農家は偉大な米国人だ」と、大統領選挙が間近でもあり、190億ドル(約2兆円)の農家支援策を発表、農家を称賛した。

 一方、われらが安倍晋三首相は、と期待させたが、目立つ対策もはっきりとした激励もなし。「せっかく点数を上げるチャンスだったのに」と自民党農林議員を少し落胆させている。

 ここ数年、台風や豪雨が襲い、荒れた農地で平均約67歳の、なかにはとうに傘寿(80歳)を超えた老体にむち打って農作業を続ける人々に一片の言葉をかけようとの気もない一国のリーダーでは、食の安全も農の復興も期待できないという、農家のため息が聞こえてきそうだ。(写真はイメージ)

 緊急事態宣言解除とはいえ、食と農業現場をつなぐ流れは飲食、観光、イベントなど各界の営業自粛で大きな傷跡が残り、当面どこまで復旧できるかは不明だ。自粛を完全に解除しないまま第2波、3波の襲来も予想され、以前の農業が戻るかどうか、不安の声も少なくない。

 だが、この間、農業現場では応援消費、応援販売や困り切っていた春作業の人手不足に旅館従業員や野球選手の助っ人など予想外の助け合いの動きもあった。

 また、巣ごもり生活の反動から国産食材への回帰や、都会の「密」から脱出する田園志向も高まるという意外な効果もでている。首相官邸などは気づかずも現場では、さまざまな助け合いの動きが繰り広げられているようだ。

 さらに、農業サイドが大いに歓迎しているのが、都市住民などからの食料自給、食糧安全保障重視の機運だ。「マスクが中国に依存しているのを見て食料が危ないと思った」「食料の輸入がもし止まったら飢饉になる」など国内農業を応援する声が農業団体などに寄せられているという。

 背景にはマスクをめぐって中国や米国、欧州が水面下で繰り広げたマスク争奪戦や日頃は国際協調、自由貿易をうたいながらロックダウン(都市封鎖)で国境が閉鎖。農業の維持や食料供給が少しでも不安定になると、即座に自国優先行動に出た国があることだ。

 先のロシアなどの小麦やコメの輸出規制が一例。いざとなれば「自国民ファースト」で動く国際社会の現実が、食料への危機意識を刺激したようだ。

 年末には前年より倍の約2億6000万人が世界で飢餓の恐れとの国連の警告もある。わが安倍さん、いざとなれば自国民ファーストで動いてくれるのか。「ファーストといってもどっかの国の大統領にでは」(農業団体内)とまったく信用も期待もできなさそうだが。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年6月15日号掲載)

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