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地産地消の極限  小島愛之助 日本離島センター専務理事

2020.03.02

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地産地消の極限  小島愛之助 日本離島センター専務理事の写真

 広島県瀬戸内海沿岸部のほぼ中央に位置する竹原港、ここから南に約10㌔㍍、フェリーで約30分の海上に大崎上島がある。

 ミカンやレモンなどのかんきつ類の栽培が盛んで、小津安二郎監督の「東京物語」を山田洋次監督がリメイクした「東京家族」の舞台でもある大崎上島は近年移住者が増加している島でもある。(写真は大崎上島の神峰山からの眺望=大崎上島観光協会提供)

 その大崎上島にあるのが塩田熟成カキの養殖場「ファームスズキ」である。

 ファームスズキの経営者は鈴木隆さん。山口県にある水産大学校を卒業後、東京の水産物卸商社に就職、2008年に独立し、冷凍カキ加工品を輸出する貿易商社を設立したが、その後、大崎上島にある塩田跡の養殖池を利用した陸上養殖という独特の手法で、ノロウイルスなどの影響を受けにくい生食用カキの生産を開始し、15年にファームスズキを設立している。

 ファームスズキの主力製品は塩田熟成カキ「クレールオイスター」であるが、現在ではクルマエビやアサリの養殖も手掛けている。ファームスズキで養殖されたカキや車エビは、16年に養殖池の隣接地に建てられたイートインスペース「ファーマーズキッチン」で食することができる。

 さらに昨年8月には、対岸の竹原港にある海の駅の3階に「ベイサイドキッチン」をオープンし、同様のサービス提供を展開している。

 欧米の海沿いの観光地では、海で取れる魚介類をその場で調理し提供する光景を当たり前のように目にすることができるが、ファームスズキでは、クレールオイスターの安全性の高さ故に、海を眺めながら生カキを食するという至高の楽しみを感じることができるのである。

 まさに〝地産地消の極限〟である、といっても過言ではないだろう。

 さて、大崎上島について語る際には、「教育の島」構想に言及しなければならない。

 島にはもともと広島商船高専と県立大崎海星高校が存在していた。まず取り組まれたのが海星高校魅力化推進事業であり、公営塾「神峰学舎」の運営と併せて、島根県海士町の隠岐島前高校を追いかける実績を上げてきている。

 そこに、昨年4月、大崎上島に広島県立の全寮制中高一貫校、「広島叡智学園」が開校、第1期生として40人の新中学1年生が入学してきた。掲げる教育目標は、「世界中どこでも、地域や世界のよりよい未来を創造できるリーダー」を育成することだという。

 この教育モデルが実を結べば、概ね5年内に大崎上島発のグローバルリーダーの卵が羽ばたいていくことになるだろう。

 最後に、大崎上島の自他とも認めるセールスポイントに触れておきたい。それは島の最高峰452メートルの神峰山からの眺望(写真)である。

 無人島まで含めると115もの島々が一望できる瀬戸内海、否、わが国随一の多島美であるという。この眺めは絶好の酒のアテではないか、と不謹慎に思ってしまうのは筆者だけではないであろう。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年3月2日掲載)

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