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創造的過疎  出町譲 ジャーナリスト

2020.03.09

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 徳島県の神山町といえば、地方創生の優等生といえよう。光ファイバー網の整備で、サテライト・オフィスが殺到し、注目を浴びているからだ。(写真は神谷町提供)

 この町が新たな動きを見せている。「次世代型の高専」だ。私立の高専としては全国で4校目となる。2023年開校を目指す。修学期間は5年。全寮制となる見通しで、1学年の定員は、40人とする計画だという。校長を全国から公募している。

 高専設立の言い出しっぺは、神山町にサテライト・オフィスを置く、名刺管理ソフトの会社Sansan社長の寺田親弘。人工知能(AI)、デザイン、アートなど専門技術を学ぶだけでなく、起業家精神をもった人材を育成する方針だ。設立にかかる資金は、一部は寺田が個人で拠出する。町は学校や寮の用地の提供で協力するが、資金は小口の寄付を含めて幅広く募る。

 神山町に「改革」の種をまいたのは、NPO法人「グリーンバレー」の前理事長、大南信也だ。大南自身、次世代高専の設立準備委員会のメンバーに名を連ねる。

 神山町の最大の特色は、移住希望者を逆指名することだ。大南はかつて私にこう言った。「移住希望者をみんな受け入れているわけではありません。できるだけ地域にいい変化を起こしてくれそうな人たちに移住してもらいたい。『IT企業を起こしませんか』『パン屋をやりませんか』と、町に必要と思われるような人を逆指名しているのです」

 Sansan以外にも、IT企業などが次々にサテライト・オフィスを構え、今では進出企業は16社になる。光ファイバーが整備されていることが追い風となっている。店舗を開く人も多い。大阪で自然食品のバイヤーをしていた家族が移住し、地元食材を使ったピザ店を出店した。地元の人が愛用している。

 また、靴職人の移住者もいる。愛知県出身の男性で、ドイツで修業し、帰国後は神奈川県などで靴づくりをしていた。妻と一緒に神山町に移住したのは15年1月だ。客が来店し、寸法をはかり、その人に合った靴づくりをする。遠方から来る人が、この店で靴を購入するためには、寸法を測る必要があり、1泊するケースも多い。「県外からもこの靴を求めて買いに来るお客さんもいます。そうなると、泊まったり、食べたりしてまたお金が落ちるのです」(大南)

 過疎化に対して危機感を抱いていた神山町役場も、大南の動きを支援した。その結果、神山町への移住者は220人以上に上る。神山町の人口は約5300人なので、全体の4%ほどが移住者になる。

 大南は「創造的過疎」という概念を提唱する。それは、人口減の流れには無理に逆らわず、若者などを呼び込み、人口構成の健全化を図るものだ。農林業だけに頼らず、地域で多様な働き方ができるようにしたいという。「やったらええんちゃう」が口癖でとにかく行動を重視する。多少失敗しても軌道修正すればいいという考えなのだ。(敬称略)

(KyodoWeekly・政経週報 2020年3月9日号掲載)

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