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「肥料取締法」15年ぶり改正  中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2020.03.30

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「肥料取締法」15年ぶり改正  中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員の写真

 農林水産省は土作りに役立つ堆肥や産業副産物由来肥料の活用とともに、農業者のニーズに応じた柔軟な肥料生産が進むよう、肥料制度に関する法制度の見直しを進めてきた。肥料取締法が15年ぶりに改正され、「肥料取締法の一部を改正する法律」が成立し、2019年12月に公布された。法律名称も「肥料取締法」から「肥料の品質の確保等に関する法律」に変更され、大幅な改定が行われた。(写真はイメージ)

 法改正の背景は、堆肥施用量の減少による地力低下への危機感がある。また世界的な肥料需給の高まりで肥料原料(リン鉱石など)も価格は不安定さを増している。土壌改善と肥料の安定供給には、安価で国内調達できる家畜ふん堆肥や食品残渣などを、有効に利用する必要がある。

 農林水産省の統計資料によれば、水田への堆肥の投入量は、過去30年間で約4分の1にまで減少している。農家が高齢化し、重くて扱いが面倒な家畜ふん堆肥が敬遠されているためである。その結果、米や大豆の収量が減っている地域が出ている。

 見直しの方向は規制強化と規制緩和に大別される。強化については、肥料メーカーの原料管理制度を徹底する。2015年に肥料の偽装表示が発覚し、使用していた農家が大きな損害を被るという事件があった。

 そこで改正法では、肥料の原料として利用可能な産業副産物の範囲を明確にした上で、原料の虚偽表示を罰則対象とすることが盛り込まれている。

 緩和については、肥料の配合に係る規制を示す公定規格を見直し、さまざまな農家のニーズに応じた新たな肥料の開発や利用が進むと考えられる。肥料は、家畜ふんなどから作られる「堆肥」と工業的に作られる「化学肥料」があり、この二つを自由な割合で配合して販売できることが可能になる。

 堆肥と化学肥料を自由な割合で配合できるようになることで、これまで別々に散布しなければならなかった作業が1回に集約でき農家には大きな負担軽減になる。また、肥料価格が下がることも期待できる。

 現在販売されている配合肥料には、菜種油かすなどの有機質肥料が用いられているが、安い堆肥と置き換えれば、肥料価格が10〜30%程度下がるとみられる。

 肥料メーカーにとっては、堆肥と化学肥料を自由な割合で配合できることで、市場の細かいニーズに合わせた多種多様な肥料を生産することができることから、商品開発の幅が広がり、ビジネスチャンス拡大に期待が掛かる。

 今後、規制緩和の部分については成立から1年後、強化の部分は肥料メーカーの準備期間を見て、2年後をめどに段階的に施行される見込みである。この法改正で、生産者は低コストで土壌改善ができるようになる。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年3月30日号掲載)

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