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広がる企業の有害鳥獣事業   通知、捕獲やドローン追跡も

2020.02.10

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広がる企業の有害鳥獣事業   通知、捕獲やドローン追跡もの写真

 イノシシやシカなどの有害鳥獣による農作物への被害が深刻な社会問題となっている。被害範囲も拡大しており、対策は急務だ。そんな中、警備大手や通信機器メーカーなどが自社の強みを生かし、有害鳥獣の被害防止事業に力を入れている。わな、防護フェンスなどの対策用品の販売だけでなく、設置・管理、駆除までサポート、狩猟免許を持つ社員が捕獲事業に当たる企業もある。

捕獲も請け負い


 農林水産省が昨年10月に発表した2018年度の野生鳥獣による農作物被害状況によると、被害金額は前年度比4%減の約158億円。このうち、シカが約54億円、イノシシが約47億円、サルが約8億円などとなっている。

 被害面積は同3%減の約5万2000㌶で、防護柵の設置などにより減少傾向にあるものの、人口減少を背景に被害範囲は山間地域、中山間地域にとどまらず、都市部にまで及んでいる。

 早くから有害鳥獣による被害軽減・防止事業に力を入れているのが警備事業大手のALSOK。情報通信技術(ICT)機器や箱わな、囲いわな、防護フェンスまで鳥獣被害対策に必要な対策用品の販売から設置・管理、駆除まで総合的にサポートしている。

 同社は宮城、福島、新潟、茨城、千葉、香川の各県で認定鳥獣捕獲等事業者の認定を受け、捕獲業務を請け負っている。狩猟免許を取得し教育を受けた社員が定期的な見回りやエサやり、運搬までを行うもので「ネズミなど小型動物の駆除の依頼も入るため、駆除後の処理では専門業者と請負契約を結んでいる」という。

 同社が有害鳥獣被害防止事業に参入したのは13年8月。警備業務を通じて培ったネットワーク・拠点・人などを活用して有害鳥獣による被害軽減・防止への貢献を模索。第1弾として有害鳥獣捕獲わなの監視装置の取り扱いを開始した。

 野生鳥獣を捕獲するためのわなは、見回りや捕獲の際の作業負担が大きい。同社のわな監視装置は、わなが作動すると管理者にメールを送信し、わなの作動を知らせる。管理者がわなの作動状況を把握できるため、わなの見回りにかかる労力の低減や稼働率の向上が期待できる。

増える社員の狩猟免許

 実際に被害に遭った自治体などから「捕獲業務自体も手伝ってほしい」との要望も多いことから、認定鳥獣捕獲等事業者の認定を受け、捕獲業務も請け負っている。現在、グループ社員で捕獲従事者として都道府県へ登録している狩猟免許取得者数は17年の62人から19年には106人に増えている。 

ドローンでシカを追跡


 警備最大手のセコムは、グループ会社で地理情報サービス事業を行うパスコと18年4月、京都府南丹市で、野生鳥獣による農作物被害のうち、最も被害額の大きいシカによる農作物の被害を防ぐため、自社開発したドローンを使った実証実験を実施した。

 地上に設置したレーザーセンサーで敷地内に入った侵入者や侵入車両の位置を特定し、その情報をドローンに送ることで、ドローンが追跡する仕組みの民間防犯用の自律型飛行監視ロボット「セコムドローン」を販売している。

 実証実験では「ドローンによる追跡でシカを監視範囲外まで追い払うことができ、有効性は確認できた」という。一方で、完全に追い払うには長時間追跡し続けなければならず、飛行時間を長くする必要がある。

 また、シカの食害対策が必要とされる場所は山林など植物・岩・地面の高低差などがあり、センサーの設置が難しい場所も多い。地上のセンサーを必要とせず、ドローン自身でシカの位置を認識し、追跡する仕組みが必要なことが課題としてわかった。

 このため現在、人工知能(AI)を搭載したセコムドローンの開発を進めている。同社は、シカ食害についても「新型ドローンを使用し、さらに実証実験を行い、事業化の判断を行う」としている。

遠隔地にも捕獲を通知


 マスプロ電工(愛知県)は、遠距離通信が可能な無線通信規格「Sigfox」を活用した通知システム「ワナの番人」で展開を図っている。低消費電力で広域をカバーする無線通信で、一度に送信できるデータ量は小さいが、遠距離通信や乾電池だけで駆動するため電源工事も不要で、ランニングコストを抑えられるのが特徴。有害鳥獣対策で必要となる定期的な箱わなの確認などの手間が省ける。

 昨年1月、愛知県日進市の有害獣類被害防止対策で同システムの実証実験を開始、これまでに6県8市町村で捕獲実績があるという。「今後、温湿度センサー搭載端末、9月末にマルチセンサー搭載端末を発売する」予定。

LEDで追い払い


 このほか、北海道日立システムズ(札幌市)は、発光ダイオード(LED)の点滅発光や、スピーカーから発する威嚇音をランダムに作動させて動物を追い払う鳥獣害対策を提供している。関西電力は有害鳥獣(主にサル)の出没をカメラ映像から自動的に検知する解析モデルをAIにより構築、人による映像確認の手間をなくす鳥獣害対策の検証を進めている。

 シカやイノシシなど野生鳥獣は、駆除だけでなく、それらの肉を使ったジビエ料理にも利用できることから、各企業の取り組みが注目される。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年2月10日掲載)

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