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肉ブームに陰りも  畑中三応子 食文化研究家

2020.02.10

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肉ブームに陰りも  畑中三応子 食文化研究家の写真

 2013年前後から"空前"の肉ブームが続き、熟成肉や赤身肉などが人気を集めてきた。ところが最近、菜食関連の話題がメディアで急に目立つようになり、さすがの肉ブームに陰りが見えてきた。

 理由は、大きく二つある。一つは、環境問題への関心の高まりだ。大量の土地と穀物、水を必要とする畜産業は環境に悪影響を与え、温暖化を阻止するためには、肉食を減らすのが有効という考え方が広まった。

 中でもやり玉にあげられるのが、牛肉だ。肉1㌔を生産するためには、11㌔の穀物を必要とし、オナラとゲップからはメタンを大量に排出する。メタンには二酸化炭素(CO²)をはるかに上回る温室効果があり、「気候変動に関する政府間パネル」によると、世界の温室効果ガス排出量の16%を占めているという。

 昨年9月の国連気候行動サミットで、小泉進次郎環境大臣が米ニューヨークでステーキを食べ、非難された。

 対して、サミットでの演説が世界中の反響を呼んだグレタ・トゥンベリさんは、ビーガンだ。世界の環境派は、菜食に移行するのがトレンドで、週に1回は肉を食べないなどのフレキシタリアン(柔軟なベジタリアンの意)も急増している。

 もう一つは、宗教上や倫理上の理由から、食事に制限がある外国人観光客への配慮である。イスラム法で許されるハラルフードについては、数年前から対策が講じられ、ハラル認証マークを掲げる飲食店が珍しくなくなった。

 菜食主義者への対応は手つかずのままだったが、東京五輪・パラリンピックで肉を食べない訪日客が相当数見込まれ、ここにきて菜食対応の店や食品が充実してきた。(写真は東京都内ビーガンカフェの黒豆バーガー。穀物がふんだんに使われ、ボリューム満点=筆者撮影)

 ベジタリアンには、肉は食べないが魚・卵・乳製品は食べる人、魚も食べないが卵は大丈夫な人など、さまざまに細分化している。

 もっとも厳格なのがビーガンで、魚・肉・乳製品はもちろん、ハチミツや豚由来のゼラチンなど、いっさいの動物性食品を取らない。衣服でもウールやシルクを避ける。根底には、「人間は動物を搾取しないで生きるべきだ」という考え方がある。

 そのビーガンが、厳しいルールはさておいて、おしゃれで美容によいヘルシーフードとして、ブームの兆しを見せている。専門店だけでなく、ビーガンメニューを出すイタリアンやフレンチのレストラン、テークアウト専門のビーガン弁当、ビーガンスイーツが、驚くべきスピードで増えている。先日は、浅草にビーガンのコンビニとファミリーレストランまで登場した。

 ベジタリアンに関心を払わなかった日本人が、ビーガンには敏感に反応したのは、響きがかわいく、とっつきやすく感じるからかもしれない。同じく完全菜食主義のマクロビオティックも、「マクロビ」と呼ばれて急に浸透した。食の流行には名前が重要なことを、改めて感じる。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年2月10日号掲載)

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