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空き家に命を吹き込む  沼尾波子 東洋大学教授

2020.02.03

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空き家に命を吹き込む  沼尾波子 東洋大学教授の写真

 共同通信社の加盟新聞社などで主催する「地域再生大賞」を2019年度に受賞したのは、NPO法人ふるさと福井サポートセンターであった。福井県美浜町を中心に、地域の空き家を活用するための仕組みを丁寧に構築し、空き家を拠点としたさまざまな地域づくり活動の展開を下支えし、人々のつながりを作る取り組み活動を行っている。(写真は美浜町移住居住体験施設「黄舎」。空き家が再生され宿泊施設に=2019年11月)

 2018年の住宅・土地統計調査によれば、全国の空き家はおよそ849万戸、総住宅数の13・6%を占め、今後も増大することが見込まれる。空き家増大は、防犯上の課題のほか、地域の衰退を生むことにもつながる。

 政府は15年に空き家対策特別措置法を制定し、適切な管理が行われていない空き家などに対する施策の基本指針を定めるとともに、自治体に空き家などの把握、情報提供や活用のための対策を実施するよう定めた。しかし、全国で空き家は増える一方だ。

 農山村では空き家は多くあっても、不動産の賃貸や売買の市場にはなかなか出まわらない。なぜ空き家の活用が進まないのか。住まいにはそこで暮らした家族の物語がある。空き家の整理とは、家財道具や仏壇の整理などを通じて、その物語をリセットすることでもある。

 また、住まいの売買や賃借には種々の手続きが必要であり、費用負担も発生する。手放すとなれば、コミュニティーの側でも、新たな隣人を受け入れるかどうかの決断を求められる。

 これだけ多くの不安や懸念をもったまま、空き家活用といわれても、所有者は気が重くなり、つい決断を先延ばしにしてしまうのだという。

 ふるさと福井サポートセンターの取り組みは、空き家がもつ住まいの物語を見つめなおすきっかけをつくり、家族でその整理・活用について早期決断するための支援を行うものだ。

 自分の住まいの30年後、60年後を具体的に考えるための分析シートを用意し、売却、賃借などによって生じる費用負担や、収益を大まかに計算できるシミュレーションソフトも開発している。空き家利活用の方法についても相談にものる。

 これら一連の早期決断をサポートする仕組みを通じて、美浜町内各地の空き家がさまざまな形で利活用に結びついた。空き家を地域の茶の間にしてコミュニティーの拠点とした例、シェアハウスとして宿泊施設に展開した例、移住者を呼び込み、新たなつながりやにぎわいをつくった例など、町内各地で、住民の新たなつながりと活動が生まれていた。

 地元の小学校では、子どもたちが空き家について調査を行い、空き家カフェの企画運営を担うプログラムも行われた。

 人口減少が進む中で、新たに外から人を受け入れ、地域の持続を考えようとすれば、空き家活用は大きなカギになる。空き家をきっかけに、家族や地域の将来をともに考えることから、つながりが深まり、活動が広がった事例である。

(KyodoWeekly・政経週報 2020年2月3日号掲載)

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