常春の島のシイタケ 小島愛之助 日本離島センター専務理事
2020.01.20
八丈島は東京都心の南方約300キロメートルに位置する離島である。八丈島といえば「くさや」が有名だが、今ここで新たな特産物が生まれている。
それが「うみかぜ椎茸」である。栽培しているのは、大沢竜児さん、生まれも育ちも八丈島である。
島の年間平均気温は約18度で、冬でも暖かく、夏でもさほど高温にならないので、常春の島と呼ばれている。離島ゆえに海で囲まれていることで、湿度が高く、大気中の塩分濃度も本土に比べて高いといわれている。こうした気候風土がシイタケ栽培に適しているという。
大沢さんの趣味はクワガタの飼育であり、その幼虫を育てるために食用キノコの菌を植え込んだ菌床ブロックを使用していた。その過程でヒラタケがよく育つのを見て、キノコの生産に八丈島の気候風土が合っていると考えた大沢さんはシイタケ栽培の道に入った。(写真は大沢さんが栽培する「うみかぜ椎茸」)
大沢さんの大竜ファームで使用している菌床は、群馬県より西で伐採されたナラやクヌギなどのウッドチップを使って、薬剤防除を行わず、減菌釜で蒸気加熱して減菌処理を施したものに厳選した国産シイタケ菌を植え付けた菌床ブロックである。
大竜ファームは八丈島島内に40坪(約132平方メートル)と60坪の2カ所の農場を持っており、それぞれ、4000個と6000個の菌床ブロックを置いて、シイタケ栽培を行っている。細かい手入れを施しながら、2カ月半を1クールとして一つのブロックを4~5回使用するという。
先日、筆者も試食させていただいたが、まさに八丈島の自然の恵みを受けた肉厚でジューシーなシイタケであり、完全に無農薬なので、茎まで食べることができた。あえて言わせていただければ、「これがシイタケか!」という食感であった。
平成29(2017)年度に特定有人国境離島地域社会維持推進交付金という制度が創設され、全国71の有人国境離島で活用されているが、大沢さんの「うみかぜ椎茸」もこの制度を活用して事業化が始まっている。八丈島島内では、他にもこの制度の活用事例が相次いでおり、島の活性化と雇用拡大につながっている。
この「うみかぜ椎茸」であるが、テレビ番組などで取り上げられてから、急速に名が売れるようになり、しかも他のシイタケとは味も異なり、安全であることから、引く手あまたとなっている。年間出荷量14トンということであるが、前述したように合計100坪の農場だけなので、注文に生産が追い付いていないというのが実情のようだ。
最後にお勧めの食べ方も披露させていただく。何といっても、定番は茎ごと網焼きにして、しょうゆを付けて食べることのようである。また、トビウオなど魚のすり身やひき肉などを詰めて、フライや天ぷらにすることも試していただきたい。
この他にも、和風の煮物、カレーやシチューなどの煮込み料理、ピザやパスタなどなど、要するに万能プレーヤーなのである。現在は品薄であるが、僥倖にも入手されることがあれば、お試しいただきたい。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年1月20日号掲載)
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