神を迎えるお正月 大西かおり NPO法人大杉谷自然学校校長
2020.01.06
三重県大台町の旧宮川村史の年中行事「正月」の項には「お飾り、ぼく、しめ縄は昔から各家庭で年寄りが作った」とある。お飾りとしめ縄は子どもの頃から親しんできたが、「ボク」とは何だろうか? 村史にまで掲載されるということは、故郷の正月を代表するはずだが、見たことも聞いたこともなかった。
数年前の年の瀬、謎のボクを探す旅に出た。最初に電話をしたお宅で幸運にも「飾る」と聞き、喜び勇んで出かけた。
玄関脇には見慣れた昔ながらのお飾りがあった。青竹の筒に榊、松、ゆずり葉、南天など縁起物を生けて御幣をあしらうものである。そこに付けられた見慣れぬ漏斗状に編まれたわら細工がボクだ。ボクは、家長が三が日にあさげの雑煮や、ご飯を入れ神饌を供えた容器だった。(写真はボクとオジグイ付きの正月飾り=2015年12月29日、三重県大台町熊内)
本来ボクは「オジグイ」と呼ばれる3メートルほどの白木を玄関前に立て、お飾りとともに取り付けたそうだ。だが、3年前に簡易型として今の形にしたという。私が見慣れた正月飾りには、その原型が存在したと知って驚いた。
2軒目に訪問したお宅の庭には2メートルほどのオジグイが立っていたが、ボクはなかった。どんどん下流へ向い、大杉谷の隣のそのまた隣の地区に来て、ようやく昔ながらのオジグイとボクに出合えた。オジグイは優に3メートルを超え、高々と青空に突き抜けており、見上げると思わず「おおーっ」となった。
高く見上げるような造形が、目に見えない上方の他界と、この世をつなぐ回路や神の「よりまし」となるイメージは、世界中に普遍的に見られる共通の表現だという。
オジグイに込められた、天から神さまをお迎えしようとする意気込みや、気迫は本当にすごい。安全、繁栄、豊穣など昔は強く祈りたいことがたくさんあったのだろう。目に見えぬ神の所在を感じようとした先人のイメージの結晶にしびれた。
残念ながら3年前の時点で、ボク付きのオジグイを立てていた家は、このお宅以外に見当たらなかった。
力仕事ができる若い世代がいなくなれば、オジグイは立てられない。文化や風習は変化するし、はやり廃りもある。だから古い風習が消えていくのはやむを得ないのかもしれない。
だが、引き継いできた正月の決まり事の中に、見えない神とつながろうとした努力の一端を意識するのと、しないのでは大きく違う。
私はボクとオジグイに出合い、神とつながる強い心意気を知ることによって、お正月本来の意味を取り戻すことができた気がする。現代の日本の正月は、縁起物の意味や由来もそれなりに共有される華やかな行事であるが、全体に儀礼的で現代社会の作法といった感がある。神なるものの所在を意識せずに終わることもあるだろう。
令和初のお正月、先人の心に思いをはせ、皆々さまが神さまとともに暮らし、良き1年でありますように。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年1月6日号掲載)
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