「書評」能登半島地震~復興への展望 「日本農業の動き224」 農政ジャーナリストの会
2024.11.17
年初の能登半島地震による被災地の復興について、農政ジャーナリストの会は、現地で活動する支援者や生活者ら4人を講師に招いて連続勉強会を開催した。本書はその採録だ。
能登半島地震は、過疎と高齢化が進んだ農山漁村で発災し、復興に対する意識が転換期を迎えている。各地の被災現場で支援活動を続け、発災直後から現地入りして石川県の復旧・復興会議の委員も務める株式会社雨風太陽の高橋博之代表取締役は「(今回の復興は)分水嶺(れい)になる」と指摘する。限界集落が多い地域は効率が悪く、集約化して移住させた方が良いと言う意見が台頭しており、能登半島の復興で効率性を優先すれば、全国各地の集落の消滅が一気に加速する恐れがある。
高橋代表の懸念を、農政ジャーナリストの会の行友弥幹事が巻頭論文の中で、発災直後の食料・農業・農村政策審議会の議事録を引用して補っている。実際の発言は「棚田の再現は、首をかしげてしまう」「ある程度の限界になった所は、集住していただくしかない」など、議事録よりもさらにストレートな表現で「復興の合理化論」を展開した。
こうした発言を「冷淡」とか「被災直後なのに無神経」と批判するのは容易だが、現実的な問題として、どのように復興していくのか、財源をどうするのか議論を深める必要がある。まさしく「分水嶺」(高橋代表)だからだ。本書は、その議論のための貴重な素材を提供している。
特に珠洲市に移住して被災した珠洲市特定地域づくり事業協同組合事務局の馬場千遥さんは、「最初の揺れ」からドキュメントタッチで被災生活を生々しく伝えている。通信機器の不通など情報不足から生じる不安は、体験しなければ理解できないのかもれない。テレビや新聞などの報道の限界を思い知らされる。
「JAのと」の藤田繁信組合長も、現地の生活者・生産者の視点で発災直後の活動や課題を報告し、復旧・復興の遅れの原因について行政の縦割りを挙げ「指揮命令系統の一元化が大事だ」と訴えている。
中越防災安全推進機構の稲垣文彦NPO法人ふるさと回帰支援センター副事務局長は、過疎地での大規模震災の先駆けとなった新潟県中越地震(2004年)の経験を踏まえて、住民が主体となってボランティア活動の支援者や行政をつなぐことの重要性など、示唆に富む助言をしている。
日本農業の動き224号(能登半島地震~復興への展望)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。