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「書評」農協改革をモデルにした小説 「錯覚の権力者たち―狙われた農協―」 (稲田宗一郎、遊行社) 

2021.12.04

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 安倍晋三政権が強引な手法で推進した農協改革を素材にした架空の経済小説だ。7月に出版されて以降、農協関係者の間で「リアリティが凄い」「素材提供者は誰だ」「著者の本名は」と話題になっている。

 小泉純一郎政権が発足した時期から、全国農業協同組合中央会(JA全中)が社団法人化を受け入れて屈服する2015年までの物語で、創作部分も多いが、「安斎首相」「小田参院議員」「農水省の奥薗局長」など、登場人物は農協関係者なら容易にモデルを特定できる名前で設定されている。

 准組合員の利用制限で脅された農林中央金庫、全国農業協同組合連合会(JA全農)、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の全国組織やJAの地方組織が切り崩され、外堀を埋められて万策尽きたJA全中会長が辞任するまでの展開は、実に生々しい。

 安倍政権の情報操作は巧妙で、確実な事実に基づかないと記事化が難しいため大手メディアの報道には限界があり、いまだに農協改革の真相は正確には伝えられていない。狂言回しとして大手広告代理店のエリート社員を登場させ、小説の形式をとることで農協改革の狙いを浮き彫りにしたところに、作家の並々ならぬ技量を感じる。(1100円+税 遊行社)

 稲田宗一郎さんの連載ルポ「農大酵母の酒蔵を訪ねて」第1回「ダム堤脇のトンネルで熟成 「八ッ場の風」は華やかな香り」