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「書評」 都市近郊農業の新潮流をルポ  「農的暮らしをはじめる本」 (榊田みどり)

2022.01.23

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 「ステイホーム」から「ステイファーム」へ。コロナ禍を受けて都市近郊で加速している農業の新しい潮流について、神奈川県秦野市を舞台に丁寧にルポしている。

 秦野市(人口10万人)は、東京・新宿から電車で約1時間。1960年代の高度成長期に工場と住宅が急増し農地が激減した。しかし今や「トカイナカ」(都会でもあり田舎でもある)として、農業体験、家庭菜園、半農半X、就農など農業との関わりを求める人々を呼び込んでおり、この15年間で新規就農者は73人もいるという。

 きっかけは2005年に公布された神奈川県都市農業推進条例だ。秦野市、同市農業委員会、JAはだのが連携して「はだの都市農業支援センター」を創設し、さまざまなタイプの農家を受け入れてきた。

 著者が「ぐるりと価値観が変わりつつある」と表現するように、この流れをコロナ禍が加速している。大都市の過密に対する不安が高まり、人や地域とのつながりの重要性が再認識されたからだ。

 本書のタイトルから、「半農半X」のガイドブックのような印象を受けるかも知れないが、著者が強調しているのは、都市住民にとって農業との関わりはさまざまで「濃淡があっても良い」という点と、農業協同組合や生活協同組合が、人と人を結び付け地域を支えていく上で極めて重要な役割を果たしている実態だ。

 もちろん、本書の前半で具体的に報告している「定年帰農」「他市からの移住」「転職」など、さまざまなタイプの就農は、農業との関わり方を模索している読者の手引きになるだろう。(農文協)

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