「書評」子ども食堂の急増を考える 「日本農業の動き213」 農政ジャーナリストの会
2022.02.12
この20年間ほど、大手メディアは日本経済の停滞や社会の変化の遅れを繰り返し報道し、経済専門紙は新規起業の少なさやイノベーションの欠如を嘆いてきた。しかし日本にも10年足らずで6000倍と爆発的に成長した「事業」がある。
湯浅誠・全国こども食堂支援センターむすびえ理事長によると、2012年に誕生した「だんだん」(東京都大田区)が始祖とされる子ども食堂は、21年時点で全国6000カ所以上に広がった。今や、子どもだけでなく高齢者やひきこもりの人たちの居場所として重要な役割を担っており、自治体など公的機関も支援する存在だ。
ついに国もその役割を認め、21年度補正予算の「フードバンク支援緊急対策事業」で、子ども食堂などの資材の運搬や保管費用を助成する。子ども食堂の急増は貧困の深刻さの裏返しかもしれないが、日本社会が創意工夫に乏しく変革に消極的だという認識が間違っていることを示している。そして「つなげる」「つながる」という点で、「食」が持つ強い力を改めて感じる。
農政ジャーナリストの会は、食料生産を担う農業だけでなく流通や消費を含めた「食」全体を取材対象として捉え、2021年4~6月に同会が主催した4人の講演録を収めている。
日本農業の動き213号(広がる「食の格差」とどう向き合うか)は、上記の湯浅理事長のほか、子どもの貧困研究の第一人者である阿部彩・東京都立大学教授、フードバンク山梨の米山けい子理事長、経済格差が健康格差に直結する実態を研究する京都大学の近藤尚己教授の計4人の専門家が、「現代の貧困」について詳しく解説している。
日本農業の動き213号(広がる「食の格差」とどう向き合うか)は農村漁村文化協会発行、税込み1320円。