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農業と福祉 その連携は何を生み出すか(日本農業の動き209)  農政ジャーナリストの会

2021.05.10

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 社会の中で生きづらさを抱える人たちが農業生産に関わる動きが広がってきた。2018年に一般社団法人日本農福連携協会が設立され、法定雇用率の引き上げや人手不足を背景に、雇用主側からも障害者雇用に対する需要が高まった。さらにパラリンピックの開催を控えて、障害者に対する意識が高まっている。

 ただ、草の根ベースでは以前から、ソーシャル・ファーム、ケア・ファーム、ユニバーサル農業など、概念の違いに幅はあるものの着実な実践があった。言わば行政が後追いしている形だ。それに伴って、農福連携の定義や専門用語に対する知識も必要になっている。

 本書は、(一社)JA共済総合研究所の濱田健司主任研究員による農福連携の解説とともに、先進事例として注目されている3つの事業現場からの報告を収録している。

 当初は障害者雇用に消極的だった京丸園株式会社(浜松市)の鈴木厚志代表取締役は、「私も一緒に働きますから息子だけ雇ってもらえないか」と懇願する母親のエピソードを紹介。無給でも子の社会参加を望む親の気持ちを考え抜く中で、「笑顔創造」を企業理念に掲げ、事業を拡大していく。鈴木氏自身が成長していく過程が「農福連携」の本質を示していて、感動的だ。

 「アスタネ」(さいたま市)の根本要施設長は、シイタケを主力とする「就業支援A型」の詳しい経営内容を報告している。

 JA松本ハイランド(長野県松本市)の営農部営農企画課の鎌伸吾氏は、作業を徹底的に分割することで就業のハードルを下げる工夫など実務を紹介、「(障害者は)安価な労働力ではない」と断言している。いずれも日々の実践に基づく貴重な報告だ。(税込み1320円、農山漁村文化協会)