受託製造からブランド設立へ 台湾クラフトビールの今(下) NNA
2023.06.14

台湾のクラフトビール業界の大きな特徴が、工場を持たないクラフトビールブランドが製造を他社に委託するモデルを採用するケースが多いことだ。ブランドにとっては商品の販売に注力できるメリットがある。しかし、こうしたモデルには近年変化が生じ、異業種からの市場参入や、製造を請け負う会社が自社ブランドを立ち上げるケースが出ている。
台湾のクラフトビール業界で、製造を他社に委託するモデルで成功した代表的な企業が台湾比爾文化だ。設立は2015年。同社のブランド「啤酒頭醸造」の「二十四節気」シリーズ(写真、NNA撮影)は台湾のクラフトビール市場で高い知名度を誇る。
台湾比爾文化はブランド設立初期、二十四節気にちなんで「立夏」と「穀雨」と名付けたエールビールを売り出した。穀雨には台湾産ウーロン茶の茶葉を使用。共同創業者兼ブルワーの段淵傑氏によると、これらの商品は発売後、大きな反響を呼び、二十四節気シリーズとして発展させることにした。
台湾比爾文化が採用したのが他社に製造を委託するモデルだ。同モデルは専門の受託業者か、受託製造を行っているクラフトビールブランドに委託するもので、新たに市場に参入したブランドにとっては設備投資をしないでいいことから、より多くのリソースを販売関連に投入できるメリットがある。
しかし台湾比爾文化は22年末、新北市三重区に自社工場を設置した。現在は製品の生産は全て自社工場で行い、製造を他社に委託してきた歴史に幕を下ろした。共同創業者兼ブルワーの葉奕辰氏は「酒造りの過程は長いが、製造委託はコミュニケーションに大きな努力を要することから、設立2、3年後から自社工場の開設を計画してきた」と説明する。
新工場は先進的な生産設備を備え、製造を委託していたころの生産量の10倍の規模に対応できる。生産が軌道に乗った後には、生産能力を最大限活用するため、他社製品の製造を請け負うことも計画。また自社工場での製造を始めたことで、これまで委託先の工場では製造できなかったアルミ缶の商品も作ることができるようになったという。
多くが短命
ただ、啤酒頭醸造のように成功するケースは多くはないのが実情だ。多くが他社に製造を委託する形でクラフトビールのブランドを立ち上げるが、短命に終わるという。「台湾人は事業を起こしたがる。多くの人がクラフトビールは金を稼げると考えるが、実際はそんなに簡単ではない」。啤酒頭醸造から製造を受託していた徳意生物科技の創業者兼ブルーマスターの鄧心承氏はこう説明する。
一方で製造を委託する側の企業の幅は広がっている。鄧氏によると、7~8年前は大部分の業務がクラフトビールブランドからの製造委託だったという。ただ近年は飲食業者、ホテル、マーケティング会社など、業界の枠を超えた案件が増えている。現在、徳意生物科技に製造を委託するクラフトビールブランドは20~30社、業界の枠を超えて協力する企業は二十数社に上るという。
ビールの受託製造事業から起こった伝奇酒業の林晋弘総経理も「クラフトビールブランドからの委託は年々減少している」と明かす。ブランドの運営終了などがその理由。一方でホテルやレストランなど他業界と協力するケースの方が多いという。
農業団体と連携
これまで製造を請け負ってきた会社が自社ブランドを立ち上げるケースも出ている。伝奇酒業は18年、自社製品の研究開発(R&D)を開始。酒造りにハチミツを用い、20年にはアルコール度数3.5%のハチミツ酒の生産を始めた。自社ブランド「微醺蜜月(ビー・バズ・ハネムーン)」も打ち出し、現在は台中や彰化などの農会(農業団体)と連携する。農会からは酒造りに使う原材料の供給を受ける。「農会にとっては農産品の余剰や規格外品の問題を解決することができる。農業従事者にとって助けになる」と林氏は話す。
(伝奇酒業が農会と連携して売り出した商品=伝奇酒業提供)
伝奇酒業は今年、自社ブランドの知名度向上を目指す。微醺蜜月の商品は現在、各地の農会に並べているだけでなく、量販店でも販売している。「台湾では(クラフトビールなどの製造で)地元の特色を打ち出そうとする動きが活発化している。われわれは商品づくりを通じて、各地の農産品加工産業が活性化することを期待している」と強調した。
フルーツを原材料に
徳意生物科技は16年、自社ブランド「鄧爸麦酒(DBブルワリー)」を立ち上げた。会社は受託製造事業からスタートしたが、現在は自社ブランド事業の比重の方が大きいという。鄧氏は「受託製造事業は稼働率を高めるためのもので、今後は自主ブランドの販売を主な業務にしていく」と話す。
鄧氏が現在注目しているのが、台湾のフルーツを原材料にした酒造りだ。発展の潜在力があるとみている。ドイツ式のビール理論を学んだ鄧氏はかつて、ドイツの製造法に沿ったビールに強いこだわりをもっていた。ただ、業者の求めに応じてフルーツなどを加えて製造したところ、世界的なコンテストで受賞したことから、地域の素材を加えることが台湾の特色を広めていく最も良い方法になるとの考えに至った。
「台湾は果物王国。果物の品質は非常に良いが、売り切れずに余っているとの報道もよく見る。こうした果物を酒造りに生かせば、付加価値を高められるだけでなく、他国に輸出することもできる」。鄧氏はこう考えている。
鄧氏は今年、台湾の果物などを使ったクラフトビール「台湾精醸啤酒」と発泡性果実酒の「水果気泡酒」の両シリーズを海外に売り込む計画だ。今年3月には東京で開かれた食品見本市にも参加した。日本企業と販売協力することで商談が成立したという。
(徳意生物科技のブランド鄧爸麦酒の発泡性果実酒=NNA撮影)
鄧爸麦酒としては現在、五つのシリーズで25種類以上の商品を展開する。鄧氏は「海外のメーカーはほぼ毎月のように新商品を発売する。消費者がその時の気分や季節に応じて最適なクラフトビールを探し出せることが大切だ。ブルワーはしっかりとした醸造の理論とアイデアを兼ね備えてはじめて、良いクラフトビールをつくることができる」と話した。
公営メーカーも参入
「台湾ビール」を手がける台湾公営の酒・たばこ類メーカーである台湾菸酒(TTL)もクラフトビール市場に参入している。日本統治時代の1919年に設立された高砂麦酒株式会社を前身とし、100年以上の歴史を持つ台北市中心部の台北啤酒工場(下の写真=NNA撮影)でクラフトビールを生産している。
台北啤酒工場などによると、同工場は台湾で最初のビール工場だが、烏日(台中市烏日区)、善化(台南市善化区)、竹南(苗栗県竹南鎮)の各ビール工場が完成すると、その重要性は相対的に下がり、閉鎖が取り沙汰されるようになったという。
一方で、クラフトビール市場が成長していたことから、消費地にある台北啤酒工場にクラフトビールの生産ラインを置くこととなり、2018年5月には「北啤精醸」のブランドで初のクラフトビールを発売。これまでに約20種の商品を出し、「小麦啤酒」は常時生産している。
直近で台北啤酒工場の生産量全体に占めるクラフトビールの割合は5%に満たないが、22年下半期(7~12月)から注文や新たな商談が増えており、今年は顧客数の増加が見込めるとしている。
台湾菸酒は、台北啤酒工場の強みは製造工程や品質面の管理能力にあるとみており、烏日工場の研究開発拠点と新商品の開発を続け、市場に売り込んでいきたいとしている。(NNA 張成慧)
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