教訓は生かされているか 加速する原発再稼働の流れ 小池智則 共同通信福島支局長
2023.04.03
福島県双葉町にあるJR常磐線の双葉駅。ある平日の朝、電車で到着すると、20人近い乗客が一緒に降り立った。
一見何ということもない光景だが、ここは2011年に発生した東京電力福島第1原発事故のため11年5カ月の間、人が住むことができなかった場所だ。双葉町は全町民が避難を強いられ、福島県内の自治体で唯一、埼玉県へ県外避難も経験した。昨年8月「帰還困難区域」の中で、除染やインフラ整備が済んだ一部エリアの避難指示が解除された。
原発から20㌔圏に全く入ることができなかったころを思うと、人の姿があるというのは、町民ではない自分でも感慨深い。駅前には真新しい建物が目に入る。東口に町役場、反対の西口には住宅が並び、診療所もできた。(写真:双葉駅西口で整備が進む住宅=3月7日、福島県双葉町、筆者撮影)
原発事故からの12年を振り返ると、特に最近の大きな特徴は、原発再稼働の流れが急速に進んでいることだ。福島では事故を起こした福島第1原発6基と、第2原発4基の計10基が全て廃炉になり、第1原発では溶け落ちた核燃料の冷却や、燃料取り出しに向けた作業が続いている。
日本国内の原発も全て停止したが、2015年、九州電力川内原発(鹿児島県)1号機の運転再開で「原発ゼロ」が終わり、再稼働が徐々に進んだ。
各電力会社は火力を中心にしのいできたが、石油や石炭、液化天然ガス(LNG)など原料輸入のコストが経営を圧迫。地球環境への影響で、火力には風当たりも強い。太陽光や風力も、発電量はまだ多くを期待できず、結局は原発ということになった。これまでに全国で17基が原子力規制委員会の審査に合格し、10基が再稼働に至っている。
この流れが一気に加速したきっかけが、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻だ。エネルギー価格の高騰を受け、岸田文雄首相が昨年4月、原発を「最大限活用する」と表明。8月には「次世代型原発の建設」「既存原発の運転期間の延長」を指示した。そして12月、政府がこれらを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を決定した。
福島の事故後、国のエネルギー基本計画で「可能な限り依存度を低減する」と位置づけた「脱原発」は一変した。確かにエネルギー確保は極めて難しく、原発回帰を単純に批判することもできない。
ただ、福島では今も帰還困難区域が広く残り、避難者が約2万7000人に上る。双葉町も町内の人口はまだ60人ほどで、一から町を作り直す取り組みが続いている。こうした現状や教訓が本当に生かされているのか。3月11日を期に、あらためて考えている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年3月20日号掲載)
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