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トラフグを低塩分養殖   神の島・壱岐のブランド  小島愛之助 日本離島センター専務理事

2023.03.20

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トラフグを低塩分養殖   神の島・壱岐のブランド  小島愛之助 日本離島センター専務理事の写真

 長崎県壱岐島では、昨年10月にRE水素システムが本格的に稼働し始めた。太陽光発電の電力で陸上養殖を運営するとともに、余剰電力で水を電気分解して水素と酸素を製造する。水素は貯蔵しておいて夜間に水素発電を行い、副産物である酸素も有効利用できるという優れたシステムである。

 なかはら(同県壱岐市)が郷ノ浦町で運営している陸上養殖場がこのプロジェクトの舞台となっている。なかはらでは、以前からトラフグの海面養殖を手がけてきたが、2015年から陸上養殖の事業化に取り組み、19年には数千匹を出荷するまでにこぎつけた。現在では、16の水槽で成魚と稚魚を合わせて約5万匹が養殖されている。

 なかはらの陸上養殖の特徴は、通常の海水の塩分濃度が3.5%であるのに対して、これより低い塩分濃度(0.9%)で育てている点にある。海にすむ魚は、3.5%の塩分をエラで排出する際に体液との浸透圧調整のためにエネルギーを消費している。低い塩分濃度の水の中で育てることによって、魚のストレスが減り成長が早くなるという、11年に東京大の金子豊二名誉教授が公表した理論をもとに事業化に成功したのである。

 壱岐では、深い地下水は真水、浅い地下水は塩水になっているが、なかはらの陸上養殖場では、地下からくみ上げた塩水と淡水を適切に混ぜることによって0.9%の塩分濃度を保っている。

 地下水を活用することで、年間を通じて、魚の生育に適した20度前後という水温に維持することができることも利点の一つであるとされる。この低塩分陸上養殖は、食料安全保障が叫ばれる中で大きな救世主になるかもしれない。

 壱岐島では、もう一つお知らせしておきたいプロジェクトがある。北部勝本町にある壱岐イルカパークでこれから始まろうとしている新しい形の離島留学である。名付けて全寮制オルタナティブスクール「島のまなび舎」。

 これまで島外の小中学生を対象に定期的にキッズキャンプを行ってきた同パークが、壱岐島の自然環境とイルカとの触れ合いを通して、子供たちに笑顔を取り戻そうという試みである。その行く末を見守りたいと思う。

 さて、なかはらの陸上養殖で育ったトラフグは、「壱岐七ふく神」(写真)というブランド名を冠されて出荷されている。その名の由来である七つの特徴を挙げておきたい。まず低塩分養殖という世界初の技術である。

 次に一定の水温で管理されるストレスフリーな環境が挙げられる。3番目には雑菌が少ない地下水を使用するために病気になりにくいことがある。

 さらには、淡白で歯応えのある肉質、輝くような身の白さ、低塩分で育てられたフグを海水につける味上げによるうま味成分の増加、自然に優しい循環ろ過方式の採用などが挙げられている。

 まさに神の恵みに育まれた壱岐島ならではの産品である。こうして出荷された「壱岐七ふく神」、現在は島内14のホテル・旅館・民宿をはじめとして、提供されているという。壱岐島を訪問される際には、ぜひ一度お試しいただきたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年3月6日号掲載)

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