酪農でも「異次元対策」を 王国・北海道に危機 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2023.03.13
「どんな寒い年でも草は生える、草があれば牛は飼える、牛の糞尿があればよい土ができる」。約120年前、そんな信念で牛飼いを始め、荒ぶる自然と厳寒に立ち向かい、今日の酪農王国、北海道の礎を築いた黒澤酉蔵翁の言葉だ。(写真はイメージ)
明治期、北海道に渡った開拓民は当初、施肥をせず粗放的農業を行い、収量が落ちると他の土地に移る「略奪型農業」をした。だが、これでは毎年のように襲いくる冷害に太刀打ちできない。コメ、麦、豆などは無惨な結果となることが多く、すぐさま開拓民は飢餓に直面した。大冷害に見舞われたある年の開拓民は、ドングリや野草の根、藁などを臼でつぶし、煮たり焼いたりしながらわら団子を作り飢えをしのいでいたという。
その様を見て、黒澤らは「家畜なくして肥料なく、肥料なくして農業なし」の欧米農業の教えを得て、「牛の糞尿で良い土を作り、これを循環させれば冷害を克服できる」とし、酪農こそ北海道に適した作目だ、と決めた。
そして多くの開拓民に呼びかけ研鑽と話し合いによる協力を重ね、生乳の集配やバターなど乳製品販売までの確固たる一大酪農システムを作りあげる。雪印乳業はその象徴の一つだ。
北海道は日本最大の食料基地となり、国民の食卓に不可欠な乳製品の供給産地となった。地元酪農は土づくりを進め耕種農業に貢献する一方、多くの関連産業を作り、金融、教育などを含め北海道経済の根幹として盛り上げている。
だが、そんな大事な酪農が今また大きな危機にある。離農、廃業する酪農家の勢いが止まらないのだ。専門紙の調査では昨年10月末の酪農家戸数は全国で1万1400戸。これは半年で400戸(3.4%)減った計算となり、前年同期の280戸(2.3%)より減少スピードが上がっているという。
コロナ禍による生乳需要の停滞、ロシアのウクライナ侵攻でコロナ禍以前のトン5万円から10万円超に配合飼料価格が急騰、副産物のヌレ子(生後間もない子牛)価格が1頭数万円からタダに近い急落。30年前のウルグアイ・ラウンド合意で13.7万㌧(生乳換算)の乳製品輸入を国際約束とする矛盾もある。
昨年暮れには飲用、加工向けでそれぞれメーカーとの交渉でキロ10円の引き上げや配合飼料高騰にも国が特別補填した。しかし、飼料高騰がどこまで続くか見通せず、まもなく牛の淘汰も始まる。「酪農は設備投資額が大きく、経営の見込みが立たなければ農協などはどうしても廃業を勧めがち」(酪農ジャーナリスト)という。
さすがに国は本来夏に発表の廃業動向調査を早急に公表の方向を決めたが、起死回生となる「異次元対策」を酪農でも期待したいものだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年2月27日号掲載)
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