品種、生産方法が多様化 イチゴ、生産減で粒数減らす 岡千晴 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員
2023.02.17
そのまま食べたり、スイーツに使われたり、イチゴは生活に彩りを与える存在はないだろうか。国内でも各県が育種に取り組んでおり、栃木県の「とちおとめ」や佐賀県の「さがほのか」などの生産する県名や、「越後姫」や「さぬき姫」など、土地の名前を冠したイチゴが多数ある。各県の試験場で開発された品種などは特に、生産地域が限定されている。例えば知名度ならびに人気の高い「あまおう」は、福岡県だけでの生産が許されている。(写真はイメージ)
例年11月ごろから出荷がはじまり、スーパーなどに並ぶ生食用をはじめ12月のクリスマスや年明けのイチゴスイーツイベントなど、出荷は5月ごろまで続く。国内の生産面積は減少傾向であるものの、生産技術の向上などによって年間約15万㌧が出荷されている。
主産地で1粒減の動き
ただし高齢化などによる生産人口の減少や異常気象によって、生産量の減少が懸念されている。この流れに主要生産地では、価格は据え置きで1パック当たりの重量を減らして供給量の減少に対応している。
2021~22年に栃木県や静岡県、愛知県、長崎県、熊本県などイチゴの主産地で約10年ぶりに1パックの量を1粒(約20㌘)程度減らして、1パック240~260㌘とする動きがあった。この背景として、国内のイチゴの生産量の減少に加えて、包装資材の高騰による影響があったとみられる。
イチゴは見た目に加えて、香りや酸味と甘みのバランスなど、幅が広い。イチゴと言えば真っ赤な色が特徴だが、最近では通称白イチゴ(「ミルキーベリー」、「淡雪」、「パールホワイト」など)や黒イチゴ(「真紅の美鈴」など)のように、赤いものという常識を打ち破るようなものもみられる。
これらは紅白や黒白のイチゴを組み合わせ、贈答用として販売されていることも多い。1粒100㌘近くにもなるイチゴや桃の香りのするイチゴなど、高級路線のものも特徴が多様になっている。
皮が柔らかく傷つきやすいため、長距離輸送に向かないイチゴによっては、生産量も少なく、各県内でしか流通していない品種や個別の観光農園でしか手に入らない品種もある。栃木県の「とちひめ」など、希少性から一部では幻のイチゴと言われるものもある。観光農園では複数の品種を収穫・試食できる場所も多く、レジャーとしてさまざまなイチゴを食べ比べることもできる。
品種開発や人工光栽培で生産多様化
暑さに弱いイチゴは、日本の夏にはほぼ生産できず6~11月は米国産を中心とする輸入品に頼っており、主に業務用向けとして年間約3000㌧超が輸入されている。国内では暑さに強い品種が開発されており、一般的な品種は秋冬イチゴと呼ばれるのに対し、北海道や長野県などの高地の比較的涼しい地域で、夏秋イチゴが生産されている。
夏秋イチゴを代表するものとして、「夏瑞/なつみずき(品種名ペチカほのか)」や「サマープリンセス」がある。数年前まで、夏秋イチゴは甘味や酸味が弱いと言われていたが、最近ではかなり秋冬イチゴに近づいてきているという。現在、輸入イチゴを利用している夏季にも国産イチゴを使いたいというニーズもあり、夏秋イチゴの人気は高まっている。
国内の閉鎖型植物工場(太陽光ではなく、閉鎖された空間で人工光を用いて植物を栽培する技術)では、レタスなどの葉物野菜を生産が主だが、数年前からイチゴの生産も行われている。閉鎖型であれば年間を通じて同じ環境で生産でき、イチゴの通年生産が可能になる。
一般的に同じ株で連続して栽培すると「なり疲れ」を起こし、収量・味の低下が起きる。新潟県に本社・生産拠点をおくMD-Farmでは、閉鎖型植物工場で同一の株での「連続開花」を実現させ、2019年11月に生産開始してから3年以上、毎日、途切れることなく安定した品質・量で収穫している。
これにより連続的な収穫かつ供給量の安定化、通年で一定した品質の生産、収穫スケジュールや作業量といった、労働環境の安定を実現した。この技術は22年に特許を取得し、「イチゴの栽培方法」として登録されている。
米国では閉鎖型植物工場で生産しているスタートアップのOishii Farmが、21年12月に約55億円の資金調達を達成し、22年5月には世界最大のイチゴの植物工場をオープンするなど、世界的にも植物工場での生産が注目されている。
目標高く輸出振興
日本産は香港や台湾、東南アジアを中心に輸出されている。輸出量は増加傾向にあり、期待される日本の農作物の一つである。輸送による傷や衝撃を避けるため、輸出向けのパッケージの開発も進められている。イチゴの生産で全国2位を誇る福岡県は地理的な優位性もあり、積極的に県産イチゴのPRイベントなどを現地で開き、輸出振興に努めている。
(イチゴの輸出量推移、矢野経済研究所作成)
日本政府はイチゴの輸出額を、2025年までに86億円、30年までに253億円に拡大する目標を掲げている。目標達成に向け、輸出対策向けに生産支援、加工流通(鮮度保持施設・資材)、販路開拓などの支援を行っている。
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