チャレンジを形にする町 埼玉・横瀬の振興策 沼尾波子 東洋大学教授
2023.01.23
「日本一チャレンジする町・チャレンジを応援する町」を標榜し、人・モノ・カネ・情報が集まる町があると聞き、先日、埼玉県横瀬町(よこぜまち)を訪問した。西武池袋駅から特急に乗ること72分、西武秩父駅の一つ手前の横瀬駅を玄関口とする小さな町である。
この町は、人口7847人(2022年12月1日現在)、面積は約50平方㌔で、その大半を山林が占める。主要産業は、武甲山から産出される石灰岩鉱業、ブドウやイチゴなどの観光果樹農業である。
人口減少が進むことへの危機感から、町は地域の未来を変えることを宣言し、その起爆剤として、16年9月に「横瀬町官民連携プラットフォーム(通称よこらぼ)」を構築した。
さまざまな社会課題に対し、横瀬町をフィールドにして、誰でも挑戦できるよう、事業提案制度を創設し、町と連携して推進するものだ。社会課題については範囲を限定せず、応募から採択までの時間も最短で約1カ月というスピード感がある。
これまでに121件の提案が採択(22年12月現在)されており、事業分野は、教育・子育て関連34件、新技術活用・開発27件、シェアリングエコノミー13件など多岐にわたる。提案者も大企業から中小企業、スタートアップ企業、大学、個人など、実に幅広い。
だが、財政支出を行った事業は5件にとどまるそうだ。行政はあくまでも事業に対する信頼性の付与と、事業実施の場や情報の提供などが中心になる。地域課題が山積している地方の町だからこそ、チャレンジできる案件が多く、実証回数を重ねることにより、「横瀬町と一緒に取り組みたい」という声が上がるという。
これまで、被写体中心の360度自由視点で映像撮影できる新技術の実証実験を、地元のサッカー少年団やスポーツ吹き矢協会などの協力で実施した例や、小児科医のいない町でスマホでの遠隔医療相談サービスと医療費削減効果の検証を行う例などが出ている。
提案された事業は、民間投資を喚起し、遊休施設の利活用につながるなど、地域経済の強化にもつながっているという。空き店舗を活用した町のにぎわい拠点「エリア898」も創設され、来訪者や2拠点居住者などの関係人口も増加している。(写真:手前のエリア898と奥の民間運営のテレワーク施設は自由に往来できる)
さらに、町役場もチャレンジし、地域商社を立ち上げ、地域産業の成長支援や雇用促進など、新たな地域経済循環の創出を支える動きにもつなげているそうだ。
空き家活用のほか、鳥獣害対策、新たな子どもの学びの場の創造など、多くの提案とともに、地域内外の人々のチャレンジが展開し、一つ一つ成果につなげている。地域振興策の新たなスタイルを見た思いがした。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年1月9日号掲載)
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