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サッカー強国は農業大国か  食料事情安定が不可欠  共同通信アグリラボ所長コラム

2022.12.04

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 サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会は、16強による決勝トーナメントが始まり、連日熱戦が繰り広げられている。アルゼンチン、フランス、オーストラリア、ブラジル、米国など農業大国の出場チームが多い印象を受ける。サッカーの強弱と食料生産との間に相関関係はあるだろうか。

 農業大国かどうかは、さまざまな定義と指標があり単純な比較はできないが、食料の生産力については、国際的には穀物自給率で評価するのが普通だ。穀物自給率が100%以上の国は、生命を維持するのに不可欠な穀物を自国で供給し、余剰分は家畜の飼料として使ったり、他国へ輸出したりして、国内需給を能動的に調整することができる。その意味で穀物自給率が、食料生産力のレベルを最も簡易に示すことができる。

 日本では食料自給率を熱供給量(カロリーベース)で示すことが多い。算出に品目ごとに熱量、消費量、国内生産量を足し上げていく複雑な計算が必要であるなど、さまざまな欠点があり、国際的な比較には向いておらず、農林水産省は先進国を中心にした15カ国・地域の数字しか公表していない。

 一方で穀物自給率は世界食糧機関(FAO)の統計に基づく国際比較が可能で、同省が世界179カ国・地域の数値をまとめた最新版(2019年)によると、決勝トーナメント出場チームの16カ国のうち100%を超えるのは、アルゼンチン(277%)、フランス(187%)、オーストラリア(181%)、クロアチア(145%)、ブラジル(131%)、米国(116%)、ポーランド(114%)と7カ国もある。イングランドの数字はないが英国も98%と高水準で、確かに穀物自給率が高い国の存在感は大きい。

 しかし、穀物自給率が低い国も試合では健闘している、日本と韓国(28%)、ポルトガル(23%)、オランダ(11%)などだ。強弱の指標として1次リーグでの勝ち点と穀物自給率の関係をグラフにすると、ほとんど相関関係がないことが分かる。相関関係を示す回帰直線はわずかながら右肩下がりで、むしろ自給率が低い方が、勝ち点が多い。

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 W杯や五輪のように、出場選手に国籍条件があるナショナルチームによる試合の場合、人口、経済力、スポーツ教育などを含めた総合力が決め手となり、1つの指標との単純な相関関係を描きにくい。

 それでも、サッカーにおける農業大国の存在感が大きいのは、競技のルールが少なく、ボール1つで特別な施設や道具がなくても楽しむことができる大衆的なスポーツであり、世界中に普及し競技人口が多いからだ。この幅広い裾野を支えるには、食料事情の安定が不可欠だ。

 穀物自給率が100%を超える国は、食料事情を安定させる上で有利な立場にある。一方、国内生産が脆弱な日本やオランダのような貿易立国や産油国は、輸入によって食料を調達している。グラフからは決勝トーナメントに出場しているチームが、食料の国内生産を重視する国と、輸入に依存する国の2つのグループに半々に分かれていることを読み取れる。

 そこには、自国内で十分な生産ができず輸入する外貨も乏しい国は現れない。食料が十分に行き渡らず、潜在的に強いチームを編成できても、世界の舞台に送り出せない悲しい現実がある。世界の飢餓人口は新型コロナの感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻の影響で、約1億5000万人増加し約8億2800万人(2021年)に達している。この人々の中にも、原っぱで空き缶を蹴っている埋もれた「スター選手」が多数いるはずだ。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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