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つながっていることに意味  赤字路線の存廃、国民的議論を  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員

2022.11.28

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つながっていることに意味  赤字路線の存廃、国民的議論を  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員の写真

 1872(明治5)年に新橋ー横浜間で鉄道が開業してから、今年でちょうど150年となりました。祝賀ムードのなか、各地で関連イベントが実施されているほか、マスコミでも特集が組まれるなど、普段鉄道に関心のない人にとっても、その歴史に思いをはせる機会が多くなっています。一方で、新型コロナウイルス禍によってJR各社は赤字に転落し、多くのローカル鉄道の維持が困難な状況にあることが明らかとなりました。鉄道開業150年という節目を迎え、今後の鉄道事業の在り方に注目が集まっています。(写真はイメージ)

大量廃線時代の到来


 
今年4月にJR西日本が、7月にはJR東日本が、乗客数が極端に少ない線区の経営状況を公表し、ローカル路線が危機的状況にあることを公表しました。かねてから経営状況の厳しさが伝えられていたJR北海道が、2016年に現行路線の半数が自社単独での維持が困難であることを公表した際には、ある程度予見されていた事態という見方もありました。

 しかし、運行エリア内に大都市を抱え、比較的経営状況が良好とみられてきたJR西日本やJR東日本が、コロナ禍の影響があるとはいえ21年3月期には経常赤字に転落し、一部のローカル路線の維持が事業運営の重しになっていることを明らかにしたことは、衝撃をもって受け取られました。コロナ禍によって、これまで経営を支えてきた都市部の黒字路線が軒並み収入減となり、赤字ローカル路線を維持していくことが難しくなってきたというのです。JR西日本では、新たな地域交通体系の構築に向け、地域との話し合いを進めたいとしています。

自然災害で加速も


 JR北海道は、16年に発表した自社単独での維持が難しい路線の中でも、利用者がとりわけ少ない路線として、石勝線夕張支線、留萌線、札沼線北海道医療大学ー新十津川間、根室線富良野ー新得間に加え、すでに災害によって運休となっていた日高線鵡川ー様似間を指定し、その後の在り方について地元自治体などとの協議を行いました。その結果、上記5路線区間は既に一部が廃線の上、バスへの転換が実施され、残りもその方向で決定がなされています。

 JR北海道の状況を踏まえれば、JR西日本管内など、北海道以外のエリアでも、維持が困難とされた路線については、廃線のうえバスへの転換という流れを基本として、地元との協議が進められるものと思われます。

 一般に、輸送密度4000人/日(一定の区間の1日当たりの平均輸送人数)が、収益性の観点から、鉄道とバスの転換点と考えられています。旅客需要量だけをみれば、鉄道による輸送を路線バスに切り替えることが適当とされる水準を下回る路線は、すでにJR全社で半数に上ります。

 JR西日本管内でも、輸送密度が100人を大きく割り込んでいた三江線が、18年3月をもって廃止されました。広島県の三次と島根県の江津を結んでいた三江線は、江の川に沿って山間を縫うように走っていたため、災害に弱く、06年と13年にそれぞれ豪雨により土砂崩れ、橋脚流出などが発生し、長期の運休を余儀なくされました。それぞれ10億円以上をかけて復旧したものの、利用者は増えず、結局廃線に至りました。

 前出のJR北海道管内の日高線鵡川ー様似間や根室線の富良野ー新得間も、災害が廃線を引き寄せた印象です。収益性が低いことも手伝って、一部区間が災害で寸断されたまま修復されることなく、廃線が決定されました。近年豪雨や地震などの自然災害が頻発しており、低収益路線が自然災害により長期間運休すると、廃止に向けた議論が一気に加速する可能性があります。

つながっていることに意味


 赤字ローカル路線の廃線を含む再編に向けた議論は、一般に鉄道事業者と地元自治体が中心となって進められます。しかし、この手の問題を地元自治体と鉄道事業者だけの議論で進めることについては、懸念もあります。

 そもそも鉄道は、つながっていることに意味があります。普通列車の乗降客が全くいない区間であっても、そこを特急列車や観光列車、さらには貨物列車が走っている場合があります。例えば、北海道新幹線の延伸により、並行在来線としてJR北海道から切り離される可能性の高い函館本線の函館ー長万部間は、北海道から首都圏に農水産物を運ぶ貨物の大動脈であり、特急や観光列車も走っています。

 コロナ禍以前、函館本線を走る特急列車は、多くのインバウンド客が利用していました。観光シーズンともなれば、ほとんど外国人客で満員になることもあったようです。レンタカーの利用が難しいインバウンドの個人旅行客にとって、鉄道は不可欠な存在なのです。

 また、貨物列車が走るルートでは、災害時などに迂回ルートが確保されていることも重要となります。記憶に新しいところでは、本年8月の豪雨により、東北地方のJR路線のみならず、既に経営が第3セクターに切り離されていたいわて銀河鉄道も不通となり、一時的に南北の貨物輸送が完全に遮断されました。

 さらに言えば、ウクライナでの戦争で明らかになったことの一つに、戦車などの大量輸送に鉄道が重要であるということがあります。鉄道は、地域の人たちの足であるとともに、観光や物流、さらには安全保障上の戦略的なインフラであることを忘れてはいけません。

 鉄道の存廃を地元自治体とJRのみの協議にゆだねるのではなく、国として大きな方針を示し、各種戦略において重要となる路線については、収支のみにとらわれず、存続の是非について関係者の多面的な議論が必要となりましょう。

観光利用へ掘り起こしを


 また、貨物や特急の路線としての活用が難しい線区に関しても、鉄道事業者以外の事業者を呼び込み、観光利用などの需要の掘り起こしにチャレンジすべきです。16年、北海道新幹線が新函館北斗駅まで開通したことによりJRから切り離された江差線が第三セクター化され誕生した道南いさりび鉄道は、観光列車「ながまれ海峡号」を導入しました。この列車の特徴は当初、日本旅行がその企画からチケット販売まで大きくかかわっていた点です。鉄道事業者ではない一般の事業者が、鉄道事業にかかわり、地域の観光需要の底上げを図ったのです。

 開業から150年が経過し、地方の鉄道の役割は終わりを迎えたという見方もありますが、いまこそ、そのあるべき姿や活用方法について、国民的議論が求められているのではないでしょうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月14日号掲載)

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