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鉄路の未来占う只見線  地元も費用負担  小池智則 共同通信福島支局長

2022.11.21

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鉄路の未来占う只見線  地元も費用負担  小池智則 共同通信福島支局長の写真

 2011年の豪雨被害で不通だった福島県のJR只見線が10月1日、11年ぶりに全線で運転を再開した。「秘境路線」として知られ、観光客誘致への期待が高まる。全国でローカル線の赤字問題が深刻化する中、地元自治体も費用を負担する「上下分離方式」での復活となった。(写真はイメージ)

 只見線は会津若松(福島県)ー小出(新潟県)を結ぶ全長135.2㌔。会津盆地を抜けて山あいに入ると、只見川に沿って美しい風景が次々と現れる。水力発電の田子倉ダムを開発する物資の輸送で発展した歴史がある。東日本大震災から4カ月後の11年7月、豪雨で橋が流され、会津川口ー只見間27.6㌔で代行バスの運転が続いていた。

 JR東日本は当初、バス転換を主張した。地元は存続を求め、約90億円の復旧費用はJR東が3分の1、国と福島県・地元17市町村が3分の2を負担することで合意。また、下(設備)は県が保有して費用を持ち、上(運転)はJRが担う「上下分離方式」になった。

 JRでは、実は早い段階から再開を目指す空気があった。外国人が大勢来る貴重な観光路線だったからだ。14年に岩手県の岩泉線が土砂崩れで廃線になったが、山間部で行き止まりの「盲腸線」で、乗客が増える見込みはなかった。只見線は状況が違った。

 再開当日。地元がお祝いムードに包まれた中で、注目すべき発言があった。記念式典に出席したJR東日本の深沢祐二社長が報道各社の取材に、他の赤字路線の上下分離方式について「一つの形として参考にしていただければ」と述べた。これは「只見線をモデルに、地元負担をお願いしたい」と踏み込んだと言える。東京から駆けつけたのも、お祝いの一方で、このメッセージを発信しに来たのだろう。

 1987年の国鉄の分割民営化から35年。近年はJR全社の苦境が続く。北海道が2016年に「単独では維持が困難」とする路線を発表。今年に入り西日本、四国、東日本、九州が「赤字路線」を相次いで公表した。新型コロナウイルスによる乗客激減で、新幹線や都市部の利益でローカル線の赤字を埋める仕組みが成り立たなくなった。

 只見線の会津若松ー小出の直通列車はわずか3往復。会津若松発で見ると、6時8分の次が13時5分と17時。午前中にゆっくり乗ろうと思っても、列車がない。

 ローカル線では珍しいことではない。休日は観光列車も走る。だが大きな期待とともに再開した路線がこれでは、JRの本気度を疑いたくもなる。地元住民からは「上(運転)も引き取れば、本数を増やせるかも」と冗談交じりの声も聞かれた。JRがまさかそこまで考えているとは思いたくない。日本の鉄路の未来を占う重要なローカル線となった。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月7日号掲載)

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