足下の宝を見逃すな 京都の水産資源を学ぶ 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2022.11.07
昨年9月、私たちの団体はそれまでの東京に加え、新たに京都チームを立ち上げた。岡崎にあるイタリアンレストラン「チェンチ」の坂本健シェフから、「京都にも水産資源問題にアプローチしたい料理人がたくさんいる。ぜひチームで学び活動したい」との打診があったのがきっかけだ。
15人のシェフメンバーはすぐに集まり、設立以降1年をかけて、海についての基礎知識を共有するため勉強会を続けてきた。その間彼らと密にやりとりするなかで、京都が抱える独自の課題も浮かび上がってきた。そのひとつが、彼らが足元である京都の海のことをほとんど知らないということだ。(写真:京都府宮津市のトリガイ養殖業者を訪ねた京都チーム)
食がお好きな方はご存じかと思うが、京都では賀茂なすや伏見とうがらし、聖護院かぶや丹波栗をはじめ京野菜にこだわりを持つ住民やレストランが多い。地産地消がことさら重んじられ、地元の産物にいい意味で誇りを持っている。
しかし一方で、魚介類に関しては京都産への関心が高くないのだ。卸売市場に並ぶ魚は瀬戸内産や九州産が目立つ。そもそも京都の海と府内消費地を結ぶ、大きな流通ラインがないという。
もちろん、京都の中心である京都市が府の南端に位置するため瀬戸内にも近いことや、府中央の山々の存在から、歴史的に京都の南北交通が発達しなかったという地理的理由は大きい。峠を避けて、若狭(福井県)から運ばれる魚が主流だった時代もある。
しかし今や南北をつなぐ高速道路も整備され、宮津から市内までは車で1.5時間、京丹後からでも2時間の距離だ。日本の各地域の魚種の違いから、複数地域より魚を集める意義はあるものの、あまりに京都のポテンシャルを見逃していないか。足元の宝に気づいていないのではないか。
地元の魚をコンスタントに使い続ければ、料理人なら海の日々の変化に気づいて当然だし、その豊かさを未来につなげたいと思うのはごく自然な流れだ。さらに、地域の漁業者や流通事業者との顔が見える取引関係が始まれば、息の長い取引につながる可能性も高い。一次産業を起点とした地域経済の循環は、近年多くの自治体が目指してきた方向のはずだ。
京都のレストランに京都の魚が当たり前に並び、地元の水産資源の未来を皆で考えられる土壌を作れないかー。今後の京都チームのチャレンジの一つだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年10月24日号掲載)
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