ジェンダーギャップへの失望も 女性の結婚・出産意欲低下 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2022.10.31
若い世代、とりわけ女性の結婚や出産に向けた意欲が驚くほど低下しています。
国立社会保障・人口問題研究所が9月に発表した出生動向基本調査(2021年実施)によれば、男女とも「一生結婚するつもりはない」と考える人が急増しました。とりわけ18~19歳の未婚女性の伸びが顕著で、15年に実施した前回調査から倍増し11.2%となりました。この世代において既婚者の割合は極めて低いため、基本的に若い女性の1割以上が結婚の意思を持っていないことになります。
もちろん、価値観が多様化し、結婚して子どもを持つことは、幸せの一形態に過ぎません。生涯結婚せず、「非婚就業」を継続することを理想とする未婚女性(18~34歳)の割合も、前回調査の5.8%から12.2%に倍増しており、社会の変化を印象付ける結果となりました。
しかし、結婚を希望しながら、結果的に「非婚就業」になることを予想している女性が33.3%に達しており、希望していてもその通りにはならないと考えている女性が相当数に上っていることも確かです。
若い女性にとって、結婚の先にある出産は、さらに縁遠くなりつつあるようです。結婚する意思のある未婚女性のうち 「ある程度の年齢までには結婚するつもり」と回答したのは前回調査の59.3%から今回は46.8%に低下し、「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくても構わない」が過半数となりました。
「結婚したら子供は持つべき」と考える未婚者の割合は男女とも大幅に低下しましたが、その傾向は女性でより顕著で、前回調査の67.4%から36.6%に下がっています。当然、未婚者の希望子ども数も低下しており、とりわけ女性で前回調査の2.02人から、男性(1.82人)を下回る1.79人へと大きく下がりました。
こうした状況から見えてくることの一つに、結婚と出産を切り離して考える女性が増えていることがあります。出産には年齢的な適期があるとされ、結婚と出産を一連のこととしてとらえ、なるべく若い時期の結婚を希望する女性が一定数いることは間違いありません。一方で、出産までは考えず、理想的な相手が見つかるまで結婚を遅らせることをいとわない女性が相対的に増えているようです。
結婚・出産に向けた意欲の低下が、女性により顕著に表れているという調査結果は、事の深刻さを表しています。もちろん、最新の調査は、新型コロナ禍の最中に実施されたこともあり、女性にとりわけ厳しいものとなった当時の雇用環境が、意欲の低下を助長した可能性もあります。
それに加えて、女性に偏りがちな家事・育児の負担、男性より低い賃金、なかなか高まらない女性の社会的地位など、ジェンダーギャップへの失望や反発も一因と考えられます。
これまで少子化対策として取り組まれてきた保育所の充実や男性育休の取得率向上などの重要性が否定されるものではありませんが、それらは結婚や出産のスタート地点にいる姿すら描けない若い世代に響くものとはなっていません。
若い世代の経済・雇用環境の改善はもとより、わが国に根強いジェンダーギャップの解消に、これまで以上に取り組むことが必要であると考えられます。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年10月17日号掲載)
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