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豪の日本酒市場が急拡大  酒フェス盛況、販路多様に  NNAオーストラリア

2022.10.10

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豪の日本酒市場が急拡大  酒フェス盛況、販路多様に  NNAオーストラリアの写真

 オーストラリアのシドニーで、約200種類の日本酒の利き酒や日本の酒蔵および地場の販売業者などと商談ができるイベント「酒フェスティバル2022」が10月1日に開催された。前売券はすぐに完売し、当日は定員を超える1000人以上が来場するなど、近年の日本酒ブームを彷彿とさせる盛り上がりを見せた。(写真)

 昨年1年間でオーストラリアが日本から輸入した清酒の量は74万㍑を超え、前年比42%増と大幅に増加。新型コロナウイルス流行により一時停滞したオーストラリアの日本酒市場は、成長モードに再突入したと言えそうだ。

 フェスティバルに出店したのは、日本酒専門業者や日本食材卸、飲食店など合計14社だ。合わせて国内初の日本酒コンクール「オーストラリアン・サケ・アワード」の表彰も実施された。

 主催したJAMS.TVの遠藤烈士社長によると、日本酒の多様な魅力を伝えることや、オーストラリアの日本酒市場の長期的発展に寄与することが目的だ。

 来場者は20~40代が多く、アジア系参加者が目立つ。ある中国人参加者は「中国では日本酒の愛飲家も多い。今回も中国人の来場者は多い」と話した。

 出店者側の期待も大きい。米澤酒造(長野県)の「今錦」を取り扱うサケリエ(Sakelier)のトーマス代表取締役は「オーストラリア人にとって長野県はオリンピックのイメージが強く、ブランド力がある」とし、「長野をアピールすることで販売が増えることを期待する」と述べた。

 メルボルンを拠点とするサケメイト(Sakemate)も、取り扱う遠藤酒造場(長野県)の日本酒「渓流」について、「古酒と呼ばれる日本酒の熟成酒で、オーストラリアでは珍しいことから人気がある」とした。

 一方で「オーストラリアの消費者は、はっきりとした分かりやすい味わいの酒を好む」との見方も出た。「日本人に好まれる辛口の味は伝わりにくく、比較的甘口の酒が売れる」、「柚子など果実系の酒の売れ行きが特に良い」との声もあり、商品の市場最適化(ローカライズ)が重要とする見解も示された。

日本酒輸入、10年で倍に


 近年の日本食ブームやアルコール飲料に対する嗜好の多様化を背景に、オーストラリアの日本酒市場は急拡大している。財務省貿易統計によると、日本からオーストラリアへ輸出された清酒の量は、2010年には20万㍑程度だったのが、20年には52万5000㍑と倍以上に成長し、翌21年には74万7000㍑と42%増加した。輸出額も21年のオーストラリア向け輸出金額は7億3000万円で、17年の3億9600万円から84%も拡大した。オーストラリアは世界で第7位の日本酒市場だ。

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(グラフ:NNAオーストラリア作成)


販売チャネル多様に


 オーストラリアの市場全体では、約300種類の日本酒が流通していると言われ、日系の食品卸による展開が主流だ。

 一方で、オーストラリアの主要都市で日本食スーパーを展開する大手食品企業の代表は、「過去十数年に渡り日本酒は日本食レストランで飲むという形態だったが、地場小売やアジア系小売が取り扱いを始め、消費者の手に届きやすくなった」とチャネルの多様化を指摘する。市場の成長に加速が付いた形で、同社の展開する小売店、卸、オンラインにおける売り上げも拡大を続けているという。

 実際にオーストラリアで1500店の酒類小売店を持つエンデバー・グループはこれまでに、傘下の「BWS」や「ダン・マーフィーズ」でアジア系酒類を強化。12種の日本酒を商品ポートフォリオに追加した。

 同社のラム調達部長は「オーストラリアの消費者はよりプレミアムな『サケ』の探求を始め、特に最高級の純米大吟醸の香りや風味に人気が出ている」と述べた。追加した12ブランドのうち、6つが千代の亀酒造(愛媛県)の蒼流や、越後桜酒造(新潟県)の越後桜といった純米大吟醸だ。

日本酒以外も人気上昇


 エンデバーにおける焼酎の売上高も、過去1年間で2倍に増加したという。同氏は「焼酎は独特の風味がありさまざまな飲み方ができることに特徴がある。またウオッカなどほかのスピリッツ類に比べ、アルコール度数とカロリーが低いことも健康的なイメージを喚起する」と売り上げ増の理由を説明した。

 さらに、日本でも人気のストロング系酎ハイも注目を集めている。酒類専門誌ドリンク・ダイジェストは、ビームサントリーがオーストラリアに投入した「-196℃ ストロングゼロ〈ダブルレモン〉」を、発売後すぐにRTD(Ready To Drink、開けてすぐ飲める)部門のトップセラーの一つとした。

 オーストラリアのアルコール消費者数は、22年6月時点で1360万人(人口比67.9%)と前年から1.8%減と横ばいから減少傾向にある。だがRTDの消費者数は3.2%増加しており、この傾向の中で「ダブルレモン」は「日本の『カルト』的な製品」というアピールが奏功したと同誌は分析している。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 10月7日号から)


【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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