伸びる専門EC、サブスクも 食品通販のトレンド 大篭麻奈 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2022.10.14
食品通販市場の拡大が続いている。2021年度の食品通販市場総市場規模は、前年度比2.9%増の約4兆4434億円となった。20年度にコロナ特需・巣ごもり需要が発生し、市場が初めて4兆円を超えた反動減が懸念されたが、21年度も断続的な緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの行動制限が続き、食品通販の需要は高止まりした。(写真はイメージ)
長期化するコロナ禍において顕著にみられるトレンドとして、外食や旅行などの余暇が制限される中、在宅時間を充実させるために、レストランのようなぜいたくな味わいを自宅で手軽に楽しむことができる、冷凍食品・総菜といったグルメ商品の「お取り寄せ」需要の拡大がある。
外食事業者も店舗営業が制限を受ける中で、積極的に需要開拓に向けて商品開発に取り組み、この分野に新規参入者が増加したことも市場拡大につながった。
22年4月以降、全国的に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、外出機会が増加したことで、食品通販市場では反動減はみられるものの、いくつかのトレンドが生まれているので、ここで紹介したい。
身近な人にグルメギフト
これまで食品ギフトといえば、中元歳暮などの儀礼ギフトが中心で、ゼリーやようかんなど、化粧箱に入れられた賞味期限の長い商品が多かった。これに対して、コロナ3年目となった22年度は、冷蔵・冷凍のグルメ商品を、両親やお世話になった人に贈るという用途が増えている。
母の日や敬老の日などのシーズンイベントはもちろん、日常時にも、長期化するコロナ禍で外出・外食を控えている両親らに、自宅で楽しめるグルメ商品を贈ろうといった心理を反映しているものと推察される。
21年度までにグルメ商品を自宅に「お取り寄せ」する需要が拡大したことがベースとなっており、自分で食べておいしかったから、両親や知人にも贈るといった行動につながっていると考えられる。
ソーシャルギフトが拡大
食品以外のカテゴリにおいてもみられるギフト全体のトレンドとして、相手の住所や電話番号が分からなくてもギフトを贈ることができるソーシャルギフト(eギフト、デジタルギフトとも呼ばれる)が拡大しており、スイーツやグルメ商品などのラインナップが徐々に増えている。
従来、ギフトを贈る際は、注文時に相手先の住所や受け取り日時を送り主が入力することが一般的だが、ソーシャルギフトは送り主が商品を選んで決済すると専用のURLが生成され、それをLINEやメールなどのコミュニケーションツールで相手先に共有すると、受け取り側が住所や受け取り日時を入力し、商品が発送される仕組みになっている。
近年、若年層を中心にSNSでつながっていても、相手の住所や電話番号を知らないというケースは増えている。住所を聞くのは気が引けるという人でも気軽にギフトを送ることができるとして、特に若年層で拡大がみられる。
ソーシャルギフト事業を展開する方法には、LINEギフトのようなソーシャルギフトを集積したモールに出店するパターンと、自社ECサイトにソーシャルギフト機能を備えるパターンの2種類あり、特に後者が徐々に増えている。
専門化進むECモール
21年度以降、あるカテゴリに特化してさまざまな店舗が出店する専門型ECモールが増加傾向にある。小売業界全体を振り返ると、衣食住をワンストップで満たす総合スーパー(GMS)が衰退したあと、核テナントと専門店街を持つショッピングモールが人気となったように、ECでも、何でも販売している総合系モールが一般化した今、差別化も兼ねて専門化が進んでいる。
酒類のようにコロナ禍の影響を大きく受けた業界は、業界活性化に向けた取り組みという側面がある。元サッカー選手の中田英寿氏が代表を務めるJAPAN CRAFT SAKE COMPANY(東京都港区)は、全国のさまざまな酒蔵の日本酒を直接購入できるECサイト「Sakenomy Shop」を2021年1月、オープンした。
コロナ前まで法人向け(B to B)を主販路としてきた酒蔵は厳しい経営状況に立たされており、個人向け(B to C)の販路構築に寄与している。また、酒類販売チェーンのカクヤス(東京都北区)も2021年7月、酒とつまみに特化したモール型ECサイト「カクベツ」をオープンした。
パンのEC拡大、サブスクも
パン業界では食品宅配サービスのパンフォーユー(群馬県桐生市)が、"おいしいパンを旅しよう"をコンセプトにしたパンの定額利用のサブスクリプションサービス「パンスク」を展開している。ベーカリー(店舗)はコロナ前、混む曜日や時間帯の予測が可能だったが、コロナ禍で混雑を避ける人が増加したことで、製造予測をしにくくなった事情がある。
最近の食品の相次ぐ値上げで節約志向が強まっており、来店にも影響が出始めているというベーカリーもある。その点、「パンスク」は製造個数が事前に確定するため、計画を立てることが可能でロスが出ないというメリットがあるという。
コロナ当初にサービスをスタートしたこともあり、開始当初から会員数は順調に伸び、2022年5月現在の会員数は2万人に到達した。現状、約75のベーカリーと提携している。
社会的な企業課題となりつつあるデジタルトランスフォーメーション(DX)という点からもECの強化は必須であり、コロナ禍をきっかけに取り組みを強化したという側面もある。油脂をはじめとした製パン原料サプライヤー大手のカネカ食品(東京都新宿区)は21年7月、全国のパンの名店から直接お取り寄せできるモール型ECサイト「ぱん結び」を開設した。
北海道から九州まで約30店舗のベーカリーが出店し、これまでは購入できなかった遠方のベーカリーの商品も購入できるのが利点である。加盟するベーカリーの商品情報をモールに掲載し、受注・決済までをプラットフォームで代行する。
注文が入ると、各ベーカリーに発送依頼が送られる。商品は全て冷凍で「パン結び専用BOX」で配送される。さまざまなパンの詰め合わせセットがあり、価格は3000円前後だ。
(注)本稿の「食品通販市場」はショッピングサイト、生協、自然派食品宅配・通販、ネットスーパー、食品メーカーのダイレクト販売を合計しています。全ての市場にカタログ、チラシ、テレビなどの媒体を通じた受注も含めています。
(矢野経済研究所調べ、同上)
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