暮らす
富を生み出す手段が変化 集落の消滅を考える 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2022.08.01

地方において少子化、人口流出の問題が喧伝され、地方都市の衰退が危惧されるようになってかなりの時間がたちます。さぞ、地方都市の衰退が進んでいるかと思いきや、県庁所在地レベルの都市を訪れてみると、意外なほどにぎわいがあり、通学時間帯ともなれば、多くの学生を駅周辺で見かけることもあります。(写真はイメージ)
もちろん、百貨店の閉店や一部の商店街がシャッター街になるような商業面の厳しさのほか、子どもの減少から学校の統廃合が進むなど、人口減による負の側面が目にみえる形で現れていることは否めません。
しかし、一部の中核的な都市では、一時期急速に進んだ都市の郊外化が一段落し、逆に中心部の再開発に伴う新築マンションが目立つようになり、郊外から移り住む人たちも少なくありません。
先日出張で訪れた愛媛県松山市では、街中に多くの若者を見かけました。伊予鉄道の路面電車も地元の方々の足として、多くの人を運び続けています。中心街を歩いている限りでは、著しい「都市の衰退」を感じることはありませんでした。実際、松山市の人口のピークは2015年であり、足元では減少傾向にあるものの、ピーク以降の6年間の人口減少は2%程度に過ぎません。
一方、中核的な都市以外の市町村のほとんどは、平均的なペースよりも速いスピードで、人口減少が進んでいます。中には、無人となってしまった集落もあります。
最近、瀬戸内海に浮かぶある島を訪れた際、すべての住民が去ってしまった集落跡を見かけました。地元の人に聞くと、つい最近まで人が暮らしていたとのことですが、草木が急速に空き家となった家々をのみ込み、まさに自然に還るさまを目の当たりにしました。
歴史があり、むかしはにぎわいのあった集落の消滅は寂しいものですが、結局、人は富を生み出すことができる土地でしか暮らし続けることはできないのです。全国の消滅してしまった集落数は、数え切れません。その消滅集落の多くは、社会の変化とともに、富を生み出す手段を確保することが難しくなり、人が離れていったのです。
以前は、いまでは信じられないほど山奥にまで人の営みが広がっていました。そうした山あいでのなりわいといえば、都市での暮らしに必要だった薪炭生産のほか、薬草や山菜の採取などでした。地域によっては、焼き畑でヒエやアワを育て、生計を立てていた人もありました。
山での暮らしの転換点の一つは、1960年ごろのエネルギー革命です。暮らしにまきや炭が必要とされなくなったため、山での暮らしを支えた貴重な収入源が失われ、多くの人は生活のため山を下りて行ったのです。
人口減少が進むわが国においては、伝統ある集落が消え、中核的な都市に移り住むことは自然な流れです。重要なことは、一つ一つの集落を維持することに力を注ぐことではなく、各地域で富を生み出す方法を編み出すことです。
各地に息づく伝統的ななりわいに新しいテクノロジーを組み合わせるなど、移りゆく社会のニーズに見合ったモノやサービスを提供していくことが必要なのです。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月18日号掲載)
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