皮をジャムに、茶殻からパネル 広がるアップサイクル
2022.07.18
これまで捨てられていたものに付加価値をつけて再生するアップサイクル。多くの企業が取り組んでおり、バナナの皮を使ったジャム、茶殻を配合した段ボール、廃棄するライフベスト(救命胴衣)を生かしたポーチなどが登場している。食品ロス削減を目指す東京都などは食のアップサイクル促進事業を推進する。食にとどまらず、廃棄された缶やペットボトルなどを資源化するリサイクルなどとは異なるアップサイクルが活発化している。
ブロッコリーの茎や大根の皮を活用したチップスー。ミールキット「Kit Oisix」などの定期宅配サービスのオイシックス・ラ・大地は、製造過程で廃棄されてきた原料をアップサイクルした商品だけを開発・販売する食品ロス解決サービス「Upcycle by Oisix」を昨年7月に開始。「開始から今年5月末までにオリジナル商品として24品目を開発、販売」している。
同サービスによるフードロス削減量は累計で35.8㌧(5月26日時点)に上っている。コロナ禍やSDGs(持続可能な開発目標)の認知の広まりもあり、「とくに食育や環境教育の一環で食品ロスなど環境問題への意識は高まっており、親世代より子どもの方が学校の授業で学習するためアップサイクルの知識があり、『商品を食べながら食卓で会話が弾んだ』という声もいただいている」という。
バナナの皮をジャムに
第1弾商品のブロッコリーの茎や大根の皮を活用したチップスに続き、昨年10月には加工時に廃棄されるナスのヘタを活用したチップス(写真右)、有機バナナの皮を活用したジャム(同左)を発売した。独自のアップサイクル商品開発で3年後には年間約500㌧、20億円超のマーケットを目指す。
同社では「販売状況も好調なことから、ロス食材を仕入れる工場を拡大するなど広がりが生まれており、商品の製造に関わる提携先の規模をさらに広げ、提携先100社の食品ロス削減」を目指す。
同社によると、川中(流通プロセス)での食品廃棄は0.2%(一般的な小売企業では5~10%)、川上(畑)では規格外野菜を積極的に活用し、畑のロスを大幅に削減。さらに川下(食卓)では「Kit Oisix」により、家庭のフードロスが3分の1に削減されるという。同社はフードロス削減の対象をプライベートブランド(PB)商品製造委託先、原料仕入先の約1700の提携工場に広げている。
茶系飲料「お~いお茶」の伊藤園。急須でいれるお茶と同様に茶葉を抽出して製造しているため、製造後には茶殻が排出される。その茶殻を使って段ボール、機能建材(タイル)、ベンチなどにアップサイクルしており、その製品数は「紙製品・樹脂・建材など約100種類に上り、茶殻リサイクルシステムとして使用する茶殻は20年度で約1200㌧」だという。
製品化はパートナー企業との共同開発で、最近も日本プラパレット(長野県)と「むぎ茶殻軽量パレット」を開発。続いて、岐阜プラスチック工業(岐阜県)と「茶殻配合軽量パネル」を開発し、伊藤園の営業車両の架台に採用することで従来に比べて110㌔の軽量化に成功した。
茶殻のアップサイクルに使うのが茶殻リサイクルシステムで培った特許技術。「工場から排出される茶殻の水分含有率は85~95%と高く、また温度も高いため、そのままでは非常に腐敗しやすいという問題点がある。そこで、水分を含んだ状態の茶殻の腐敗を抑え、輸送・保存・製品に配合する技術」を開発した。
航空、アパレルも
アップサイクルの取り組みは食品だけにとどまらない。ANAグループは整備士の作業着を再利用して作る「ANA×ROOTOTEアップサイクルトートバッグ」の販売を開始した。「廃棄予定の作業着の生地を再利用できないか」という現役整備士の発案により2019年に始動した「アップサイクル・プロジェクト」として、トートバッグ専門ブランド「ルートート」と共同開発し、クラウドファンディングでの試験販売を経て商品化が実現した。
JALグループも21年10月から、廃棄される航空機部品を活用した商品の販売を開始し、ライフベストやシートカバーの廃材をアップサイクルしたポーチやバッグ、アーティスト作品をエンジン部品に転写したアートなど、活用方法の多様化を目指している。
アパレル業界でも取り組みが進んでいる。青山商事は18年秋、初のアップサイクル商品として使用済み羽毛布団の羽毛素材を再活用したダウンコートを企画した。同素材は回収後、専門工場で優れた技術で洗浄され、新品同等の品質に再生し、衣料品素材として生まれ変わらせた。
今年2月にはコロナ禍で需要が減りシーズンが持ち越しとなったスーツの一部をアパレルブランド「ダブレット」に提供、アップサイクルアイテムとコラボTシャツが発売された。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月4日号掲載)
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