技術開発と市場拡大がポイント 目標高い有機農業 前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント
2022.07.18
気候変動の緩和に向けた温室効果ガスの排出量削減や生物多様性の保全など、環境に配慮した農業の実現が喫緊の課題となっている。中でも、世界的に注目されているのが有機農業だ。
2020年5月に発表された欧州連合(EU)のFarm to Fork(農場から食卓まで)戦略では、農業生産分野の目標の一つとして、「2030年までに農地の25%を有機農地に転換」という目標が掲げられている。有機農業が盛んといわれるEUであっても、有機農業の割合は2017年時点で平均7%(1260万㌶)とされており、意欲的な目標となる。
2021年5月に策定された日本のみどりの食料システム戦略でも、2050年に「耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%、100万㌶に拡大」が目標とされている。
ここでいう有機農業とは、有機農業の推進に関する法律(平成18年法律第112号)で定義された "化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業"を指す。
日本国内の現状の有機農業の面積は、2018年時点でわずか0.5%(2万3700㌶)である。そのうち、有機JAS認証を取得している農地は0.2%に限られる。目標の25%の達成には、現状の面積の40倍以上まで拡大しなければならず、高いハードルがある。
有機農業を浸透させるポイントは、抜本的な技術開発と市場拡大の両面から手を打つことだ。有機農業では通常の栽培方法より手間がかかることが課題となっている。一例として、水稲の有機栽培では、通常の1.6倍の時間がかかるというデータがある。現状のままで目標を達成しようとすると労働力が極端に不足してしまうため、「手間のかからない」有機農業の技術確立が不可欠となる。
国は2040年までに、スマート技術などによる次世代有機農業技術を確立すると掲げている。
市場の拡大も課題となる。現状、有機JAS認証を取得していない場合には、「有機」「オーガニック」などの表示はできないことになっており、環境に優しい農業を行っていてもその価値が伝わりづらい。手間をかけて栽培したものでも、市場で評価されず、通常と同じ価格で販売されてしまう可能性すらある。モノのインターネット(IoT)の普及により、農産物流通でも多くの情報が取り扱われるようになる中で、アプリなどを利用してより細かな情報を消費者に届けることが市場拡大の推進力になる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月4日号掲載)
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