ご飯を食べよう 古い女性誌に学ぶ工夫 畑中三応子 食文化研究家
2022.07.18
パン、麺、菓子など、小麦製品が値上がりしている。主な輸入元のアメリカ、カナダの不作と長引くコロナの影響、ウクライナ侵攻による小麦の国際価格の急騰などが原因だ。国産小麦に切り替えようにも自給できるのはたったの15%(2020年度)。かわりに国産米粉を使ってコメの消費拡大と、ひいては食料自給率向上につなげようという動きもある。
しかし、わざわざ粉にする前に、コメ自体をもっと食べようと訴えたい。
コメの年間1人あたりの消費量は、戦後ピークの約118㌔から半分以下に減ってしまった。ご飯でお腹いっぱいにする食生活から"おかず食い"に変わったことに加え、近年は炊飯より時短できる麺類やパンが主食に選ばれるようになっている。驚くのは、白いご飯が苦手な人が急増していることだ。
家庭での食事を分析した「残念和食にもワケがあるー写真で見るニッポンの食卓の今」(中央公論新社)によると、食べ方の変化が背景にある。柔らかい食べ物をあまりかまずに食べるようになったため、よくかまないと甘みやうま味が感じられない白飯は「味がしない」と嫌われる。最低でもふりかけで味付きにしないと食べない人が30代、40代でも増えているらしい。
いわれてみれば、外食店でも年齢にかかわらずご飯・おかず・汁物の三角食べより、カレーや丼物、炒飯やドリアといったのっけ飯、味付きご飯を食べる人が目立つ。パスタとラーメンが好まれるのも、あらかじめ濃い味のソースやスープがからみ、かむ回数をさらに少なく食べられるからかもしれない。
そしゃく機能の低下は大問題だが、コメをもっと食べるため現代の嗜好にマッチしたご飯ものはないものか、メニューのヒントを昭和初期のレシピに探してみた。当時はいまの3倍、1人あたり年間150㌔ものコメを食べていたので、女性誌の料理ページや料理書は変化に富んだご飯ものの宝庫である。
洋風ではケチャップ味のチキンライスやハムライスが人気だったが、和洋折衷の工夫がさえるのが「主婦之友」1931(昭和6)年2月号の「蛤(はまぐり)ライス」。みじん切りのハムとタマネギをバターで炒めたところに小粒のハマグリ1人前5、6個を加え、貝が開いたらご飯を入れて手早く炒め合わせ、しょうゆ、みりん、塩、こしょうで味付ける。貝に詰まったご飯を箸を使って「しゃぶりながら食べるのは、とてもお味がある」との説明が、いかにもおいしそう。
同誌1934(昭和9)年10月号の「茄子(なす)の御飯」は、さいの目切りのナスをバターで炒め、別にバターで炒めたご飯と混ぜ合わせたもの。とろっと柔らかなナスと飯粒との食感の妙が楽しめそうだ。ホワイトソースとの相性がよいとある。
1937(昭和12)年に日中戦争がはじまるとコメの消費をできるだけ節約する「節米料理」が奨励され(写真)、多種多様で魅力的だったご飯ものが一転。イモ類やマメ類、トウモロコシ、おからを混ぜて増量したり、水分でかさ増しした雑炊やかゆが主流になるが、それでも少ないコメをおいしく食べようという執念がひしひしと伝わる。皮肉なことに、今日ではダイエット食として受けそうなレシピが少なくない。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月4日号掲載)
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