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農地転用に防災の視点を  宅地化が招く水害拡大  アグリラボ所長コラム

2022.06.24

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 農作物がぐんぐん育つ時期を迎えた。一方、「数年に一度の豪雨」が、毎年のように襲来する。特に被害が大きいのは、もともと水と共生してきた田畑を転用して造成した住宅地だ。農地転用における防災の視点の強化が不可欠だ。(写真はイメージ)

 国内生産力の衰えを考えると、農地転用そのものに慎重であるべきだが、開発事業者だけでなく、農地を手放したい所有者、固定資産税の増収や人口の増加を目指す自治体が「三位一体」で、農地転用のメリットを優先するため、転用に歯止めがかかりにくい。

 最近は高速道路など大型の公共事業が減り、工場誘致も難しい。宅地への農地転用にかける期待が高まるばかりだ。転用面積の制限を自治体の判断に委ねる規制緩和が進んだのも背景だ。コロナ禍で地方移住の機運が高まり、子育て世代の誘致に熱心な自治体が増えており、転用が加速する恐れがある。

 しかし、目先のメリットだけでなく、負の側面にも目を向けるべきだ。水害だけではない。増水した用水路に子どもが転落して命を失う痛ましい事故が、今年も既に発生している。自然環境に恵まれた田園生活に伴う危険を、都会からの移住者が認識するのは難しい。

 管理責任を恐れる農家は、用水路にフェンスを設ける必要性を認識しているが、そのコストは膨大だ。ただでさえ転用に伴って水利を管理する担い手が減り、さらに負担が重くなる。

 防災や被害対策、復旧には巨額の公的資金が必要になる。宅地開発事業者、農地を手放す所有者、自治体の財政当局は、転用によるメリットがこうした公共の負担の上に成り立っていることを、もっと強く認識するべきだ。

 少なくともフェンスの設置など開発地域周辺の防災費用は、開発事業者が負担するのが当然ではないか。費用負担をめぐって住民が対立すれば、コミュニティの維持どころではない。

 NHKがテレビドラマ化した漫画「正直不動産」の主人公なら、きっとこう言うだろう。「税金を投じて整備した農地を転用し、防災のためにまた税金を使うのですか。お子さんが用水路に転落する危険性を知っているのですか。事故が起きた時の責任はだれがとるのですか」。

 水害には常に人災の要素がある。気候変動のせいにしてだれも責任を感じないとしたら、それが最も恐ろしいことだ。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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