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イノベーション、人材活用を活路に  中小企業革新で地方創生  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員

2022.06.20

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イノベーション、人材活用を活路に  中小企業革新で地方創生  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員の写真

 2年以上に及んだコロナ禍も、ようやく収束がみえてきました。観光・飲食業をはじめ地方で事業を展開する中小企業にとって、長かったトンネルの先に光明がみえてきた状況かもしれません。

 今後中小企業には、アフターコロナにおける地域経済をけん引する中核的な存在として、生産性向上や雇用の拡大に向けた取り組みが求められます。生産性向上は容易なことではありませんが、地方において中小企業のイノベーションを後押しするいくつかの取り組みが注目を集めています。そうした取り組みのうち、ここでは一風変わった事例を二つ紹介します。

 一つ目が、三重大大学院地域イノベーション学研究科の西村訓弘教授の取り組みです。西村教授のゼミには、三重県内の中小企業の若手社長が集い、自ら学び、博士号まで取得する事例が出てきています。西村ゼミで学ぶ社長たちは、得られた新たな知見のみならず、研究活動の過程で築いた多様な人脈を自らの経営に生かし始めました。

 データ分析による需要予測で仕入れのロス削減と経営資源の効率化を図った飲食業の社長や、大手事業者との連携で自動収穫ロボットの製品開発に成功した農業ベンチャーの社長、伊勢市の茶店から事業を発展させクラフトビールを作り始めた社長など、西村ゼミで得た知見を事業にフィードバックさせる事例がいくつも出てきています。

 西村教授は、地域の社長100人を博士にすることができれば、新しい地方創生の姿が見えてくると語っています。地域経済の中核を担う中小企業が元気になって、より多くの人をより高い賃金で雇うことができるようになることこそが、地方創生のあるべき姿ではないでしょうか。

 もう一つの事例は、新潟県燕市の公益社団法人「つばめいと」です。「つばめいと」は、学生のインターンシップを通じ、地元の中小企業経営層の意識改革を促す取り組みを実践しています。2016年に設立された「つばめいと」は、主たる業務の一つとして、県内外の大学から学生を募集し、地元中小企業に長期インターンとして送り込む事業を実施しています。これまで、海外を含む50の大学からおよそ1000人の学生を、90の地元企業に送り込んできました。

 もちろん、長期のインターンを受け入れることから、高度人材の採用に向けた布石となることにも期待が集まりますが、2020年時点でインターンを経験した学生が、その企業に就職した事例はありません。採用条件などの処遇面では、大都市の企業との差異が大きく、苦戦しているのが現状です。

 こうした状況の中、「つばめいと」がなおインターン事業を推進する理由は、中小企業経営者に対し、高度人材の獲得と企業の収益性向上の好循環が企業の成長には不可欠であるという理解を促すことにあります。「つばめいと」は、目先にとらわれず将来的に高度人材の就職先として燕市の企業が注目されることを目指し、インターン事業を進めているのです。

 地域企業の革新こそが地方創生であるとの認識の下、中小企業の社長が、自社のイノベーションや生産性向上に意欲的に取り組み、地域経済をけん引していくことが期待されます。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年6月6日号掲載)

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