気になる軍拡志向 食料安保対応、平和外交を基本に 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2022.06.20
収束の行方がわからない新型コロナや気候変動、長期化するロシアのウクライナ侵攻という「多重苦」で食料安全保障への関心がかつてなく高い。5月21日の国連安全保障理事会では「ロシアのウクライナへの戦争は世界の食料安保への戦争だ」(ドリビエール仏国連大使)などどぎつい発言も飛びかい、食料への世界的な緊迫ぶりを示した。(写真はイメージ)
国内でも輸入小麦の価格の急騰でパン、麺類はもとより食品の幅広い値上げへの警戒が高まってきた。ついには、日頃庶民の生活感覚と無縁な国際的人気モデルが「日本は食料自給率を上げなければと危機感を感じる。今日本は過去最低の自給率。これはかなりやばい」とツイートして瞬く間に拡散、多くの若者らの共感を得た。
こうした世の声に参院選を間近に控えた各党も反応。立憲民主党は農業協同組合(JA)グループから意見聴取し、国民民主党は食料自給率目標を実現する「食料自給基本計画を作る」などの公約を発表。自民党は森山裕・元農林水産相を中心に肥料、飼料の増産や従来の予算とは別枠で「食料安保予算」を新設することを目玉にした提言をまとめた。「今こそ政策転換」(江藤拓元農相)との威勢のいい声もあるが、同時に自給率目標の明示もほしい。だが、意外に慎重なのも気になる。
というのも、2012年の第2次安倍晋三政権以降、政府は衆参国政選挙ではそれ以前と違い、具体的な食料自給率目標を掲げてこなかった。安倍氏は口でこそ意欲的でも実際は全くその気はなく、逆に国内農家が窮する大規模な農業の市場開放を進めてきた。岸田文雄首相は初の国政選挙である昨年10月末の衆院選公約でも明示しなかった。
しかし、今回、党内の提言を受け食料安保で別枠予算を確保し、明確に食料自給率向上への目標を掲げるなら、これまでにない画期的な政策転換として評価されるだろう。先進7カ国(G7)首脳同士で食料問題が話し合っても自給率が1国だけダントツに低いのが日本。岸田氏はどこか肩身が狭くなかったか。それだけに、ここは首相裁断でしっかり方針を打ち出すべきだ。
ただし、気になるのが首相の最近の軍拡志向だ。武力での解決を放棄した平和憲法の見直しやバイデン米大統領との会談での防衛力の抜本的強化、防衛費の「相当な増額」の表明は、中国などとの緊張関係を一気に高め、戦争しない平和主義の日本のイメージを傷つけたのではないか。
「安全保障は外交とセットで」といわれるが食料安保は日頃の外交による平和・友好が大事。防衛費急拡大のあおりが食料安保枠に回っても困る。自給率100%以上の大国と同じ軍事大国志向では国民の食卓を危うくする。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年6月6日号掲載)
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