できるか需要拡大 国産小麦に期待 前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント
2022.06.06
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的な小麦の価格高騰が懸念されている。ウクライナ、ロシアともに世界有数の小麦の輸出国であり、両国分を合わせると2020~21年の世界の小麦輸出の3割を占める。ウクライナ産については、生産量の減少が見込まれる上に、収穫後の貯蔵や輸送にも影響が出ると想定されている。(写真はイメージ)
国際価格の高騰は、小麦需要の約9割を輸入に頼っている日本にも大きな影響を及ぼす。輸入小麦の流通は、政府が一元的に輸入し、一定の価格(政府売渡価格)で需要者に売り渡す形となっている。
(農林水産省資料より、価格の単位は米セント)
価格高騰対策として、政府は国産小麦の生産拡大や国産米粉の利用促進を目指している。22年度の「国産小麦供給体制整備緊急対策事業」では、小麦の作付の団地化(地域内の農地をまとめること)や、営農技術・機械の導入などに関する支援を行う考えである。
ただし、国産小麦の生産拡大には懸念が残る。一般的に、小麦は冷涼で乾燥した土地を好むため、高温多湿の日本では栽培が難しい。また、同じ圃場で複数年にわたって栽培すると連作障害と呼ばれる生育不良や病害が出やすくなり、収量減少や品質低下の原因となる。国産の7割を占める主産地の北海道でも既に小麦の連作障害が顕在化している。
需要家からは、国産小麦は品質のばらつきが大きいとの指摘が見られる。輸入の場合には、パンや麺などの用途ごとに輸入国を変え、適した品質のものを仕入れられるが、国産は、栽培できる種類が限られており、一定の品質のものを十分な量だけ確保できない点が課題とされてきた。輸入小麦の取り扱いが困難になる中で、国産小麦の利用を進めていくためには、単に生産量の増大だけではなく、品質の安定化のための研究開発も不可欠だ。
国産小麦への注目度が高まる中、長年にわたって進められてきた国産小麦の研究開発の成果が注目されている。近年、パン用の品種として、超強力系の北海道「ゆめちから」、強力系の九州「ミナミノカオリ」など新たな品種が台頭し始めている。また、日本麺用の多収品種として、北海道「きたほなみ」、関東「さとのそら」などの品種も開発されてきた。
こうした新品種は、需要家からの評価も高く、日本の小麦需要を満たすための切り札といえる。これらはパンやうどんなど、消費者の目に留まりやすい商品に使用されており、外食店などの需要家が国産原料であることを価値訴求につなげやすい。輸入小麦を満遍なく国産小麦に置き換えるのではなく、国産小麦の特徴に合った用途から重点的に需要拡大を進めていくことが有効だ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年5月23日号掲載)
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