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「理念」共有できるか  みどりのシステム戦略の課題  アグリラボ所長コラム

2022.05.06

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 昨年5月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」を推進するための新法が422日に国会で可決・成立し、有機農業の拡大や化学農薬・肥料の低減など「持続可能な農業」と「地球環境の保全」の両立を目指す政策が動き始める。

 ただ、自治体や農業生産者ら現場では戸惑いも多い。「何のため」「誰のため」という議論の積み重ねがなく、有機農業の農地面積を全体の4分の1以上にするなど欧州連合(EU)を模倣した高い数値目標が国から示され、それを達成するための技術論や予算確保に焦点が当たってきたからだ。

 「理念」について新法の3条は「(環境と調和のとれた食料システムの)確立が図られなければならない」と定めているが、要するに「やらなきゃならんからやるのだ」と言った内容で、地に足が着いた理念が共有されていない。

 さらにウクライナ戦争で燃料、肥料、飼料などが値上がりし、食料自給率の低さに対する懸念も強まっている。「30年後の環境どころじゃない、今どうするかだ」というのが生産者の切実な気持ちだろう。

 新法の成立に先立って、戦略を推進するための国の予算も確保されたが、自治体の農政現場では「国の補助を受けるためには基本計画を立てなくてはならないが、何をしてよいのかわからない」という笑えない現実がある。農薬や化学肥料の利用が規制される生産者にとっては、笑えないどころか泣きたくなる話だろう。

 農水省の立場を善意に解釈すれば、「環境との調和を達成する道筋は1本ではない。さまざまな理念を一つにまとめるのはどだい無理。それぞれ思いは異なっていても一歩でも前へ進むことが大事だ」ということだろう。新法では、基本計画の策定は市町村や都道府県に丸投げされた形だ。

 そうであれば、みどりの食料システム戦略に「理念」という魂を吹き込むのは現場の役割だ。地元の自治体や農業協同組合や生産者は、十分に話し合って「なぜやるのか」「どうやるのか」の答えを自分たちでみつけなくてはならない。「EUがやっているからやらなきゃならん」と、補助金で揺さぶられて動いているようでは、2050年までの長い戦略を走り抜けることはできない。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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