つくる
プーチン氏笑えぬ岸田首相 食料めぐる危機感あるのか 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2022.05.02

ウクライナに戦争を仕掛けたロシアのプーチン大統領には側近が戦況分析で十分な情報を与えず、戦争の長期化を招いたとの見方がある。独裁化の弊害だろう。一方、岸田文雄首相。情報の不足や偏りはないのかと思ったところ「いやそうでもない。特に食料や農業とかなじみがないのか十分情報は入っていないようだ」というのはある専門紙記者だ。
食料をめぐっては昨年からの記録的な価格高騰で、年明けから食品の値上げ攻勢。消費者には「『食生活』への不満が急上昇」(1月、内閣府世論調査)したという。
農業の経営環境も悪化の一途だ。そこへ今回の"ウクライナショック"だ。昨年11月には欧州連合(EU)が緊急時の食料安全保障対応計画を提案。中国は食料輸出国からの輸出規制を念頭に、畜産物の自給率向上計画を発表するなど、世界的に食料安保をめぐる動きは急を告げていたが、さらに緊迫感が増した。
そのような中、岸田首相は今年1月の通常国会の施政方針演説でも食料問題に触れず。予算審議で「経済安全保障」に農業や食料安保が入っていない、と追及されても農産物輸出や農業の成長産業化など、ややトンチンカンな答弁だった。むしろ値上げラッシュはこれからともいわれるのに危機感のなさをにじませた。どうやら側近や関係官僚からの情報収集意欲もない。これでは情勢分析以前で、プーチン氏を笑えまい。
どうも官僚を含めた政権全体のリスク感覚が鈍い。海外に国民の6割以上の食料供給を依存し、しかも国内農業を支える燃油や肥料原料、飼料なども輸入頼みの中、この平和ボケ感覚で大丈夫か。
これに対し中国の習近平国家主席は、3月の全国人民代表大会(全人代)で「世界は新たな波乱と変革の時期に入った」と強い危機感を表明した。食料、エネルギーの安全保障として豆類など穀物を「国際市場に依存してはならない」と強調した。
さすがに参院選を控え、危機感を感じたのか、自民党の議員幹部は2月半ば、食料安保をめぐる検討会の発足を固め、ほぼ100%を輸入に頼るリン、カリなど肥料原料、飼料などの調達など「食料安保」の検討会を立ち上げた。農林水産省も同様に検討に入った。
しかし、本来、今回の食料をめぐる危機を「食料安保」と位置付けるのなら、首相が自ら陣頭に立ち政府・与党をあげた検討の姿勢を打ち出すべきではないだろうか。
農産物貿易のあり方、抑制的で生産者の意欲を低下させる価格政策、激減する担い手や農地の実態など一連の農政の反省と転換も必要だ。そのためには、岸田首相は早急に農政への関心を高めてほしい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年4月18日号掲載)
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