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研究進むバイオスティミュラント 植物の力生かし育てる 前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント
2022.04.18

カーボンニュートラルの達成に向けて、農業資材の利用見直しの機運が高まっている。農林水産省が2021年5月に発表したみどりの食料システム戦略では、2050年までに「化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減」「化学肥料の使用量を30%低減」などの意欲的な目標が掲げられた。生産量を維持しながら、資材の使用量を削減するためには、多くの技術や工夫が求められる。
この戦略では、化学農薬の低減のための具体的な取り組みとして「バイオスティミュラント(植物のストレス耐性などを高める技術)を活用した革新的作物保護技術の開発」が挙げられている。
日本バイオスティミュラント協議会によれば、バイオスティミュラント(BS)とは、「植物やその周辺環境が本来持つ自然な力を活用することにより、植物の健全さ、ストレスへの耐性、収量と品質、収穫後の状態及び貯蔵などについて、植物に良好な影響を与えるもの」という。(写真はイメージ)
たとえば、農薬は害虫や雑草、菌などの生物的ストレスを緩和するのに対し、BSは高温・低温・乾燥などの非生物的ストレスを緩和する。肥料は植物に栄養を供給するのに対し、BSは栄養素の取り込みを促進する。このように、BSは従来の農薬・肥料・土壌改良剤などの資材とは異なる効果をもたらす。
BSは腐植質、海藻、アミノ酸、ミネラル、微生物資材などから作られる。「バイオスティミュラント」というと聞き慣れない言葉だと思う方が多いかもしれないが、日本で古くから使われてきた、ぼかし肥料(油かす、骨粉、米ぬか、牛糞などの植物・動物由来の有機質肥料を発酵させて作られたもの)もBSに該当する。
BSは作用メカニズムが不明なものが多く、農業者の経験則で利用されている場面が少なくない。バイオテクノロジーの技術発展に伴い、この作用メカニズムを解明しようとする企業や研究機関の取り組みが増えている。
たとえばデンカでは、トマトなどのモデル植物を使用した遺伝子発現解析を通じ、BSの一種である腐植質が植物に影響を与えるメカニズムの特定に取り組む。こうした研究を通じて、BSの成分や機能の解析を進めることで、効果的な使用方法を明らかにすることができる。
21年から、肥料原料の国際市況高騰の影響を受け、国内の肥料価格も上昇し、農業経営が圧迫されている。BSにより、肥料の吸収効率を高めることができれば、肥料の使用量削減なども視野に入る。BS自体の製造プロセスにおける温室効果ガスの排出なども含めた評価・検証が不可欠だが、環境に配慮した農業の実現に向けた技術の一つとしてBSの動向に注目だ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年4月4日号掲載)
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