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集中から分散へ  電力警報に学ぶ食料供給  アグリラボ所長コラム

2022.04.03

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 首都圏では桜が散り始めたが、わずか半月前までコートを手放せなかった。特に、3月21日夜から22日朝にかけては雪が舞うような寒さで、経済産業省は初の電力需給逼迫(ひっぱく)警報を発令した。

 恥をさらすようだが、このような警報が存在することを知らなかった。東日本大震災以降、電力供給の綱渡り状態が継続していることに対しても鈍感になっていた。節電要請に戸惑ったのは筆者だけではないようだ。停電はぎりぎり回避されたが、いくつかの課題が明らかになっている。いずれも食料供給と同根であり、「他山の石」としたい。

 第1の反省は、過度な外部依存だ。首都圏は電力供給を東北地方の発電所に依存しており、地震を含む災害など想定外の危機に弱いことや、長距離送電による損失や危険の大きさが改めて明らかになった。供給を海外に依存する食料も、物流が滞れば直ちに「需給逼迫警報」の危機に直面する。

 第2の反省は、大規模・集中化に対する過信だ。原子力発電所や火力発電所はもちろん、太陽光や風力など再生可能エネルギーの設備でも大規模化が進み、「想定外」のリスクが大きくなっている。食料の国内生産においても、経営規模の拡大が進み、化学肥料などの資材や飼料価格の想定外の急騰は、経営規模が大きい生産者ほど打撃が大きい。

 第3の反省は、過度な経営の効率化だ。かつては供給不足の際に再稼働するため、老朽化した火力発電所を休止状態で温存していた。しかし、維持費を削減するため最近は直ちに廃止する例が相次いでいる。食料の物流面でも効率化が進み、在庫が徹底して削減されているため、物流の断絶に対して極めて弱い。ロシアによるウクライナ侵攻で航空機の往来が制限され、ノルウェー産サーモンの入手が難しくなったのは、その一例だ。

 第4の反省は、新しい技術に対する過信だ。太陽光発電の普及自体は望ましいが、夜間や雪が降るような天候では発電できず、想定外の気温低下に対応できなかった。新しい技術は、長い時間軸の中で「想定外」が繰り返され経験値が上がる「時間のテスト」の洗礼を浴びていない。農業分野では、情報技術(IT)や人工知能(AI)を駆使した「スマート農業」の導入が進んでいるが、今後も様々な「想定外」に遭遇するだろう。特にゲノム編集を含む遺伝子操作技術に依存した生産が拡大すると、「想定外」が起きた時の供給面への打撃は計り知れない。

 第5の反省は、備蓄の軽視だ。「巨大な電池」と呼ばれる揚水式発電は、サイクル数が異なるため富士川(静岡県)以西から首都圏への送電が機動的にできなかった。食料の備蓄は、自治体、事業所などで以前と比べると意識が高まっているが、それぞれの備蓄を融通し合うネットワークが整備されていない。

 これらの反省から、重視されるべきは「地産地消(ローカル)」、「小規模・分散」、「ネットワーク」であることは明らかだ。それでもなお、電力の安定供給について「安全性が確認された原子力発電所は順次再稼働してほしい」(経団連の十倉雅和会長)、「石油や石炭を悪者にしすぎた」(荻生田光一経産相)などの化石のような発想が蘇ってくることに驚きと失望を感じる。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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