穀物輸出が過去最高水準 オーストラリア、港湾などインフラ限界に NNAオーストラリア
2022.04.14
オーストラリアの穀物輸出が好調だ。今シーズンに6190万㌧と過去最高の冬作物の生産量を見込む業界は、海外市場からの需要の高まりを受け、輸出各社はフル稼働を続けている。一方で、国内のサプライチェーンの取扱い容量は限界に近い状況とされ、今後の業界の成長にはインフラ整備が急務との声も出てきた。(写真はイメージ)
3月から続いた豪雨による東部州の洪水で、ニューサウスウェールズ(NSW)州の港湾では貨物船への積み込みに遅れが出ている。また、世界的にも突出した輸出港の非効率性と相まって、インフラがボトルネックになりつつある。
東部州最大の穀物商社グレインコープは現在、稼働容量を最大限に引き上げて貨物船への積載を行っているという。同社の2021/22年度の予想輸出量は850万~950万㌧に達するとし、前年度の790万㌧から約20%増加する見込みだ。同社広報によると、クイーンズランド州からNSW州北部で年初以来3月までに降った豪雨でも、前年を上回る輸出量を保ったという。
(単位は万㌧、出所:豪農業省)
ビクトリア(VIC)州を拠点とする穀物企業リオーダン(RIORDAN)・グレイン・サービスも、同州ジーロングとポートランドからの輸出は、前年実績を大きく超えているという。同社は17年に穀物のバルク輸出を開始し、昨年までに100万㌧を輸出した。今年はすでに「その半分を輸出した」という。
南オーストラリア(SA)州に拠点を置くスイスの資源商社グレンコア傘下のバイテラ(Viterra)は、エア半島の穀物倉庫へのトラックのアクセスに支障が出たものの、州内のその他のネットワークは順調に稼働し、今シーズンは540万㌧の輸出を見込んでいる。昨年10月以降、バイテラが集荷した穀物の約半分はすでに貨物船に積載され、海外市場に送られた状況だ。
西オーストラリア(WA)州最大の穀物取扱業者CBHグループは、3月末までに789万㌧を輸出した。同社は今シーズン、物流インフラを最大に拡大し、過去に達成した最大輸出量1500万㌧を約18%上回る1774万㌧の輸出容量を確保した。
一方で、洪水によるサプライチェーンの混乱に打撃を受けた企業もある。米国最大の穀物協同組合CHSが50%出資し、オーストラリア東部州を拠点とするCHSブロードベントは、鉄道路線や道路の寸断により各地で配送が滞り、港での船積みにも遅れが出ているという。同社幹部は「NSW州ニューカッスル港の船積みは課題が多い」と説明。同州ポートケンブラは更に状況は悪いと指摘し「両港とも積載を待つ船が多数存在する」と述べている。
「国内物流が重荷」と穀物団体
穀物業界では将来的に今期以上の生産拡大も可能とみる。生産者団体グレイン・プロデューサーズ・オーストラリア(GPA)のベテルス会長は「今期は霜害やネズミの大発生、豪雨があったが過去最大の生産量を達成し、今後の拡大の可能性を見せた」と述べた。一方で今期の豊作が国内のサプライチェーンの限界を示し、成長の足かせになることを明示したとの声も出た。
同会長は「収穫された穀物の出荷港への物流が成長の制約になることは明らか」と指摘。グレインコープも同調し「特に港への輸送が重要な部分だ」とした上で「地域鉄道路線の不足と維持の怠慢が冗長な物流を生み、多くの穀物が道路輸送に回りコストを引き上げる」と強調した。また、輸出業者がサプライチェーンに対する投資判断をするために、段階的なビジョンを備えた業界主導の計画が必要という。
一方でCBHは着々と手を打つ。貨物鉄道会社オーリゾンと新たな契約を締結し、4月から貨物鉄道2路線の追加運行を計画し、生産者に対しても穀物を直接輸出港へ運搬するプログラムを発動した。現時点で34の生産者が興味を示しているという。
輸出港の非効率性が突出
さらに、輸出港もインフラ施設として限界点を迎えているという。荷役コストの上昇や労組の勢力拡大、不十分な物流の接続などの非効率性が背景だ。豪自由競争・消費者委員会(ACCC)が昨年実施した調査では、国内最大のメルボルン港とシドニー港の評価は、世界の351港中でそれぞれ302位と337位だった。
GPAによると穀物の輸出コストは過去3年で急上昇。インド向けは1㌧当たり30米㌦から120米㌦(約1万5000円)に急騰した。同団体は声明で「輸出コストは港と陸運の接続の非効率性とパフォーマンスの低さで増幅された。合理的なコストを実現するために港がなすべきことは多い」と主張。オーストラリアの港でのコンテナ船の停泊期間は中国の2倍以上で、ニュージーランドの1.67倍、日本の4倍の非効率になっているという。
穀物業界を含む団体や州政府からの要請を受け、生産性委員会は5月にリポートを発表する予定だ。
過去最高の単月小麦輸出量
豪統計局が発表した最新データによると、今年2月の小麦輸出量は278万9640㌧で、前月から5%増加した。前年実績も6%上回り、単月の輸出量としては過去最高を記録した。21年12月から22年2月までの3カ月のバルク輸出量は694万㌧で、前年同期の676万㌧を超えた。
(単位:万㌧、出所:グレイン・セントラル)
穀物専門誌グレイン・セントラルは、3月の小麦の総輸出量は300万㌧を超えると予想する。
一方で、ブリスベン、ニューカッスル、ポートケンブラ、シドニーの各港の輸出量は2月実績を下回る可能性もあるとしている。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 4月14日号掲載)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
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