マルチワーカーが地域「編む」 認定1号の島根県海士町 沼尾波子 東洋大学教授
2022.04.25
人口減少が進む地方の担い手不足は深刻だ。その対抗策として政府は、特定地域づくり事業協同組合に対する支援制度を創設した。これは、人口急減により人材確保が難しい地域に対し、季節ごとの労働需要などに応じて、複数の事業者で従事するマルチワーカーの労働者派遣事業などを行う組合への支援を行うものである。2022年3月の時点で、全国40の組合が認定を受けている。
先日、認定第1号となった島根県隠岐郡の「海士町複業協同組合」で話を伺う機会を得た。
ここでは、繁忙期の異なる島の仕事を組み合わせ、時期に応じて働く場所を変えていくという組織横断的な複業スタイルの創出とともに、この働き方を「いろいろな仕事を掛け合わせて、自分らしく編んでいく」という意味をこめて、「AMU WORK(アムワーク)」と名付けている。(写真は同組合のロゴ)
海士町には、漁業や農業のほか、隠岐牛を育てる畜産業、ユネスコ世界ジオパークに認定された豊かな自然環境を生かす観光業など、特色ある産業・なりわいがある。だが安定雇用が難しいため、海士町に魅力を感じて移住をしたいと思っても、働き先を探すことがひとつのハードルにもなっていた。
AMU WORKの大きな特徴は、新たな働き方が、働く人、島全体、双方にとって刺激と活気をもたらすものになるよう、制度上さまざまな工夫がなされていることだ。
この制度は一つ間違えると、移住者が地元の事業者の繁忙期に駆り出され、年間を通じて多忙な業務に使われていくということにもなりかねない。これに対し、AMU WORKの場合、働き手が事務局と相談の上、季節や個々のスキルに応じて働き先を決め、仕事を行う。
すなわち、組合に所属する事業所は仕事の依頼を行うが、働き先を最終的に選ぶのは就労する側となっている。その調整を担うのが事務局であり、働き手のスキルや希望と、事業所の職場環境や業務内容等を調整・相談しながらマッチングを図る。
そこにはルールもあるという。1年目は、年間で3カ所以上かつ、1カ所3カ月以上の勤務をする。それは、複業という働き方に慣れること、島のなりわい・季節・暮らしを知ること、3カ月間ひとつの季節に関わる働き方をして、人間関係を構築するためだそうだ。2年目からは年間で2カ所以上の働き先で勤務することとされており、期間は設定されていない。
季節によって働き先を変えながら、島内の複数のなりわいに関わる。この新たな働き方の中で、どのように自分を生かしていくかは働く人それぞれに委ねられる。さまざまな現場で得た知識や経験を集め、一人一人が自分なりの仕事を編みあげ形にしていくこと、またそれによって島に、新たなつながりと活気が生まれることが期待されている。
まだ働き手の数は少ないが、移住者と地域の事業者が互いに学び合い、成長する場として地域の産業の編み直しも模索されている。移住者と地域の事業者との創造的な関係が生まれそうな取り組みである。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年4月11日号掲載)
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