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リモートワークで人材流出?  地方にベッドタウン化の懸念  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員

2022.03.21

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リモートワークで人材流出?  地方にベッドタウン化の懸念  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員の写真

 最近、地方の各都市が、東京のベッドタウンになってしまうのではないかと危惧しています。コロナ禍の影響で、多くの企業がリモートワークを導入しました。在宅での勤務が可能となったことで、職住近接が必ずしも理想的ではなくなり、東京から地方への移住に注目が集まっています。こうした動きを先取りしたIT系の大手企業が、居住地に関する社内規定を撤廃したことに注目が集まりました。(写真はイメージ)

 ただ、人口移動のデータを概観すると、いまのところ移住先としては東京を中心に、新幹線や在来特急などを使って、時折会社に顔を出すことができるエリアがほとんどのようです。2021年は東京都が転出超過となり、一方で近郊のいくつかの県で転入者が増加しましたが、さらに遠方にまで移住者が大挙して向かう状況とはなっていません。

 リモートワークは、従業員側のメリットに注目が集まりがちです。しかし、地方移住には準備のための時間や資金が必要であり、いまのところ大きな流れにはなっていないようです。

 一方、リモートワークは、導入した企業にとって、当初想定していなかった利点がありました。一例をあげれば、東京に拠点を構える企業が、全国規模で求人を出せるようになったことです。コロナ禍にあっても、IT系などの一部の企業・業種は人手不足の状況です。リモートワーク環境が整ったことにより、東京の企業が、地方の優秀な人材をリモート前提で採用することが可能になったのです。

 こうした新しい採用スタイルを取り入れた企業の話は、昨年末に知り合いから聞いたばかりです。ちょっと驚きながらも、まだ限定的な話だろうと高をくくっていたのですが、企業がリモートワークの利点を生かそうとする動きは、思いのほか速いようです。

 地方に暮らす知人女性が、昔東京で勤めていた企業にこの春からリモートで復職したことを、年賀状で知らせてきました。従業員が大都市から地方に移住しリモートワークするという念願をかなえるよりも早く、企業がリモートワークの利点を生かし始めているのです。

 地方に暮らす人が東京の企業にリモートワークを前提に採用されることは、賃金として東京からマネーを呼び込むわけですから、地方にとって良いことのようにみえます。

 ただ見方を変えれば、地方には東京の企業が欲しがるほど高い能力を有する人材が、生かされることなく眠っているということです。地方は一般に東京よりも有効求人倍率が高く、人手不足が深刻といわれますが、実態は高度な人材を生かせる就業先や雇用機会が不足しているのです。

 こうした状況が進めば、地方の地場産業から人がはがされ、より雇用条件に優れた東京の企業にリモートで勤める人が増えることまで危惧しなければならなくなるでしょう。本来、地方の産業や地域社会のために活躍してほしい人材の能力が、実質的に流出してしまうのです。

 究極的には、企業が付加価値を生み出す場は東京など大都市に限定され、地方は消費するだけの場所となってしまいかねません。地方都市の行く末が、高度成長期以降、東京近郊に数多く造成されたベッドタウンに重なってみえてしまうのは、私だけでしょうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月7日号掲載)

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