激減した国産の水揚げ アサリの産地偽装を考える 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2022.03.28
少し前のこと、ある友人と軽い口論になった。
「日本のアサリの生産量が危機的に減ってるの。このままだと枯渇するかも」と嘆いた筆者に対し、「え、私が通うスーパーはいつ行っても国産アサリが山積みだよ」と言う友人。「データを見ると絶対そんなはずないんだけどなぁ」と反論すると、「だって実際あるもの」と戸惑い顔。「じゃあすごく高いんでしょ?」「いや、昨日も特売だったよ」。お互いモヤモヤしながら、その日は別れたのだった。
そんな中で迎えた先の2月1日。報道によると、農林水産省が昨秋、全国の小売店1000店舗で「熊本県産アサリ」のサンプル調査を行いDNA分析したところ、97%に「外国産が混入している可能性が高い」と判定されたという。具体的には主に中国、韓国、北朝鮮産のアサリが「熊本県産」として、全国のスーパーに並んでいたというのである。(写真はイメージ)
アサリは1980年代以前、年間十数万㌧の国内生産量がある身近な貝だった。春の行楽シーズンには日本各地の砂浜が、アサリの潮干狩りの家族連れでいっぱいになってもいた。
しかしその後、アサリの水揚げ量は激減の一途をたどることになる。1983年の17万㌧をピークに直線的に減少を続け、2019年は7976㌧、さらに20年は4305㌧。過剰漁獲や干潟の埋め立て、水質悪化や近年の海水温上昇などその主要因が何かは明らかにされていないが、とにかく今、日本の海で、アサリはピーク時の数%(20年は2.5%)しか獲れていない。
アサリに限らず、日本は豊かな海に恵まれていると今も信じている人は多い。しかし実際その豊かさは急速に失われており、食用水産物の自給率は56%(19年)にすぎない。ほとんどの魚種において、高品質な国産天然水産物を安定的に集めることが極めて難しくなっている。名実ともに「魚の国」だった30年前とは、全く状況が異なるのだ。
今回のような水産物の産地偽装を今後二度と起こさないために、私たちに何ができるのか。まずは、「安くて高品質な国産天然水産物」という、もうすでにこの世に存在しないモノを求め続けることをやめよう。消費者を起点とする食のサプライチェーンすべてのプレーヤーが、海の現状を知り、理解し、変わることで不正を防ぎ、透明性の高いマーケットの醸成に一歩でも近づけると信じている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月14日号掲載)
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