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家庭に定着、輸出も拡大  伸び続く無菌包装米飯  清水豊 矢野経済研究所フードサイエンスユニット理事研究員

2022.02.16

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 無形文化遺産にもなった「和食」は、健康志向の高まりから世界的なブームとなっている。農林水産省の推計によると、世界各国の日本食レストランは2021年に約15万9000店と、全世界的な新型コロナウイルス感染症拡大にもかかわらず、19年からほぼ横ばいとなっている。

 日本食レストランは北米とアジアに集中している。人気メニューのひとつであるすしをはじめとして、日本食には水分が多く粘り気のあるジャポニカ米が不可欠であり、品質の高さや食味の良さから日本米の需要が高まっている。

 日本食レストラン向けなど、商業用のコメの輸出は20年で1万9687㌧531100万円であった。国内生産量(20年は約776万㌧)に占める割合は1%にも満たないが、15年以降5年間の年平均成長率(数量ベース)は20.8%に達している。

 国内のコメビジネスは、機能米の開発・加工・販売、日配米飯(おにぎり、弁当など)や加工米飯(冷凍米飯、レトルト米飯、無菌包装米飯など)の製造販売に至るまで、非常に幅広い領域となっている。近年特に市場が拡大しているのが「無菌包装米飯」である。

 無菌包装米飯とはパックご飯のうち、コメを殺菌、炊飯してから包装するタイプのもので、国内パックご飯生産量の9割程度を占める。残りの1割は、調理したご飯を加圧、加熱し殺菌する「レトルト米飯」が占める。21年のパックご飯全体の生産量は前年比で4.3%増え、6年連続で過去最高となった。

 無菌包装米飯市場は、1988年に佐藤食品工業(現サトウ食品)が開発して発売したことに始まる。90年にエスビー食品が参入し、96年から97年には、加ト吉(現テーブルマーク)、東洋水産が加わり、市場が大きく拡大した。近年、米卸・神明ホールディングス傘下のウーケ、アイリスオーヤマ(アイリスフーズ)も参入した。

 2011年の東日本大震災以降、無菌包装米飯は保存性や保管場所を選ばない利便性の高さから災害時の備蓄需要が定着しつつあるとともに、単身者や高齢者の個食需要に対応するほか、働く女性の炊事負担軽減にも貢献することから、家庭で炊くご飯の代替品としても定着している。

 昨今は常食としての利用頻度が高まり、単品(1食)よりも3食、5食パックタイプが売れ筋となっている。白飯の中でも機能米を加工した各種商品が販売されているほか、小容量(120㌘)タイプが伸長するなど健康志向の高い女性の支持も高まりつつある。

賞味期限伸び利便性向上


 賞味期限を長期化し、利便性を高める取り組みが進展している。例えばアイリスオーヤマ(アイリスフーズ)は災害用の備蓄に適した「長期保存パックごはん」を198月よりラインナップしている。遮光性の高いアルミ素材の外袋や脱酸素剤の封入により、賞味期限を5年間としている。

 サトウ食品は208月1日製造分より、サトウのごはん全自社ブランド商品を対象に、賞味期限を10カ月から1年へ延長し、テーブルマークも白飯のパックごはん全商品を対象に、10カ月を1年に延ばした。

 無菌包装米飯は賞味期限の長期化により、最近注目が集まっている日常食として消費しつつ、非常食としても利用する「ローリングストック」にも対応できる商品として、さらに利便性を高めている。

期待できる輸出拡大


 無菌包装米飯はまだ浸透していない国も多く、現状、海外での認知度は限定的ではあるものの、炊飯器なしでも手軽に日本産米のおいしさを味わえる商品として輸出が拡大している。

 神明ホールディングスグループで無菌包装米飯製造を手掛ける株式会社ウーケでは既に20カ国に輸出実績がある(精米については神明が 40カ国以上に輸出実績がある)。

 アイリスオーヤマグループで食品事業を展開するアイリスフーズは、15年にマレーシア、米国へ、独自の精米技術を用いた「低温製法米(精米)」の輸出を始めた。

 219月現在、台湾、米国、シンガポール、マレーシア、中国でも販売しており、今後はこれまでに構築した海外経路を活用し、手軽でおいしく食べられるパックご飯や切り餅の輸出を拡大する予定という。

 無菌包装米飯の輸出は現在、米国、香港、台湾向けが多くを占めるが、中国でも日本の無菌包装米飯の人気は高まりつつある。中国への精米輸出は、中国政府が指定登録した日本国内の精米工場・薫蒸倉庫による認証を得る仕組みで、登録済みの精米工場は現在3カ所、薫蒸倉庫は5カ所しかなく輸出拡大の障壁となっているが、無菌包装米飯など加工米飯であれば、こうした検疫条件が問題とならない。

 保存性が高く、炊飯の手間も省ける無菌包装米飯は、日本産米のおいしさを手軽に味わってもらえる商品として、国内外を問わず、さらに拡大していくだろう。

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