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豊かな海を未来へ  食文化つなぐ責務  佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)

2022.02.14

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豊かな海を未来へ  食文化つなぐ責務  佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)の写真

 「先人から受け継いだ食文化を未来につなぐのは、私たち料理人の責務。(魚が減り続けるなか)あの時何もしなかった、という格好悪い大人になりたくない」

 2019年10月末の日比谷・東京ミッドタウンホール。これはChefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)が主催した飲食業界向け大型水産シンポジウムで、すしの名店「日本橋蛎殻町 すぎた」の杉田孝明氏が登壇した際の言葉だ。

 持続的な海と食文化を未来につなぐことを目指し、料理人チームとして啓発活動を続けてきた私たちだが、5年前に走り出してしばらくはイベント集客にも苦労した。だが明らかに社会の空気が変わり、「節目を迎えた」と感じたのがこのシンポジウムだったと記憶している。(写真:シンポジウム登壇者と。筆者=左端は司会・進行を務めた)

 セミナーのメインスピーカーには、海の持続性向上の重要性について長く発信してきたフランスの三つ星シェフ、オリビエ・ロランジェ氏を迎えた。研究者や海洋環境の専門家にも講演をお願いし、続くパネルディスカッションには、日本を代表する著名料理人たちによる問題提起のセッション、鮮魚店はじめ水産物流通の方々による現状共有のセッションを組み込んだ。

 密度の濃い4時間に組み立てた本シンポジウムへの参加者募集は、定員180人でひっそりと始めたのだが、口コミだけですぐに満席になった。登録をなんとか260人まで増やすことで対応できたものの、想定外の注目度の高さに心底驚いた。

 当日は、東京のトップシェフたちはもちろん若手料理人、レストラングループのオーナーや著名なすし職人の方々、数多くのメディア、市場関係者などでびっしりと席が埋まり、Q&Aの時間には時間内に終えられないほどの質問が続いた。飲食関係者がそれまで、魚介類の「原因不明」の品不足や価格高騰にいかに悩んできたか、また海の未来にどれだけ危機感を抱いていたかを痛感した瞬間だった。

 言うまでもなく飲食業界は、水産物マーケットの大きな部分を占めている。彼らに現状を共有し、そして持続的な水産業への理解・支持を得ることは、現在進んでいる水産改革を成功させるためには不可欠なピースの一つだ。

 私たちは今後も節々にこのような機会をつくることで、日本の豊かな海を未来につなぐ一助となりたい。そして食文化の担い手の一端として、「格好いい大人」であり続けたいと思う。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月31日号掲載)

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