地に足つけて夢を語る 畑の不思議な力 田中夏子 長野県高齢者生協理事長
2022.01.11
いくつかの事情が重なって、2013年から信州で、パートナーと2人して小さな田畑を耕作しています。敷地内の落ち葉をかき集めぬかや稲わらなどを重ねて堆肥を積み、1年後それを大地にすきこんで土づくり...身の回りのものをコツコツ循環させる静かで小規模な農業は魅力的です。しかし、これと並行して、少し前から、縁のある人たちと誘い合い、耕作放棄地を借りて、にぎやかな農にも取り組んでいます。(写真:協同畑と生協の仲間たち=筆者撮影)
先日は、友人が営むカフェの駐車場の隅っこに5人の仲間でたった1㌃の小麦畑をこしらえました。まだ芽が出たばかりですが、「国産小麦が少なくなる中で、自前の小麦でパンが焼けたらうれしいね」とか「カフェに出すケーキにも...」などから始まって、ドイツの妖怪伝説「麦おばさん」(穀物を守る精霊)の話も飛び出し、それなら無事収穫した際には「麦おばさんのおふるまい」と名付けたイベントをやりましょう...といった具合で、ぐんぐんと話が広がります。
別の場所でも同じような経験がありました。筆者が関わる福祉生協では、組合員活動の一環で、10人弱のメンバーが、地元のフードバンク「山谷(やま)農場」に供給するジャガイモづくりに取り組んでいます。毎年ささやかな面積ですが、ワイワイと作業。今年は豊作で100㌔近くを供給。フードバンクでは日持ちのする作物が望まれるのでこれまではもっぱらジャガイモが主力でしたが、地元の有機農家さんからもアドバイスをもらい、作付け面積も栽培品目もじわじわと拡大の途上です。
福祉生協では高齢者向けの配食事業もしていますが、そこで使ってもらえば、地産地消に貢献できるねとか、大根漬物などの加工品にも挑戦してみようかとか、国産大豆、黒豆や青大豆も貴重だねとか、もっと誘い合ってこの一画を市民農園として運営できないかなど、アイデアや思いが沸き立ちます。
不思議なのは、畑作業の合間にかわされる話が、地道でありながらも前むきなことです。地に足つけて夢を語り、膨らませたい...そんなときは畑に集えばいいんだと考えるようになりました。畑の持つ、不思議な力です。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月3日号掲載)
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