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迂回ルートで物流の要所守れ  静岡・由比は「東海道の親不知」  松本伸 大林組常務執行役員

2022.01.04

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迂回ルートで物流の要所守れ  静岡・由比は「東海道の親不知」  松本伸 大林組常務執行役員の写真

 静岡市由比地区は、東海道の物流の要所であるにもかかわらず大雨による斜面崩壊や、今後起きる大地震に伴う津波に対してもろい。産官学民の英知を集め政府への政策提言などに取り組む日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の国土未来プロジェクト研究会は、災害時の物流の強靱化を図るため、トンネルによる迂回ルートの建設を提案している。

 静岡市由比地区は、断崖に位置することから東海道最大の難所で、「東海道の親不知」と称されるところである。しかも、地区の東端と西端では重要な交通幹線である東名高速道路、国道1号、東海道本線のすべての交通機関が一点で交差しており、東海道の交通のアキレス腱となっている。(写真:由比地区の現況)

 そのようなこともあり、東名高速道路も当初、山手周りのトンネルによる計画もあったが、東海道新幹線のトンネル計画がすでにあったことや1961年に発生した地滑り土砂を埋め立てに利用できるなどの諸事情により現在の海岸周りに落ち着いた経緯がある。

 東海道の交通の要所である由比地区を通る日交通量は、東名高速道路で4万2000台、新東名高速道路は4万5000台、さらに国道1号は4万7000台とかなり多い。

 一方、東海道本線では、由比地区を1日当たり約90本の鉄道貨物が運行し、同約3万㌧を輸送している。これは国内の総貨物輸送量の約45%にあたる。

自然災害に対するリスクヘッジ


 由比地区で、大雨による斜面崩壊や今後起きる東南海地震に伴う津波など、ひとたび災害が発生すると物流は一気に停滞する。東名高速道路の交通は、新東名高速道路や中央高速道路への迂回が可能であるが、国道1号の交通は、ここを通行する車両の7割以上が移動距離40㌔以下と短いことから、他の高速道路へは迂回せず、周辺道路に大渋滞を引き起こすことが解析で予測されている。

 鉄道貨物については、中央本線や北陸本線では賄いきれず、代替輸送である海上輸送は港の荷役作業の関係で、また、トラック輸送はドライバー不足とさらなる交通渋滞を引き起こすこともあり、かなり難しい状況となる。

 以上のことから、津波などの災害に備え、国道1号と鉄道貨物の迂回ルートを確保し、中部圏の経済活動と東海道の交通を維持することで日本経済へのダメージを緩和する必要がある。

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(迂回ルートのイメージ)

迂回ルート


 国道1号の代替を考えた場合、単独で迂回ルートを整備するのではなく、東名高速道路の迂回ルートと由比地区の西側の興津地区および東側の蒲原地区の両方にスマートI.C.を整備し、災害時にはこれらのスマートI.C.を開放することで国道1号の交通を東名高速道路の迂回ルートに誘導する方式を提案する。この迂回ルートの建設には15年の期間と1500億円の事業費を見込み、東名高速道路と国道1号の合併施工による整備を提案する。

 鉄道についてもトンネル方式による新ルートを提案する。ただし、事業化に向けたハードルは高く、長期的なプロジェクトと位置付けている。

余剰空間の利活用


 東名高速道路の迂回ルートが完成すると由比地区の海岸線が余剰空間となり、高速道路上下線分の幅があることや、海に面した素晴らしい景色の場所でもあることからいくつかの利用法が考えられる。まずは、今後一層ニーズが増す大型車用の駐車マスやドライバーの減少により増えてくると思われるダブル連結トラックなどの大型マスを中心としたサービスエリアの整備である。


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(余剰空間の利活⽤策)

 千葉県銚子市から和歌山県和歌山市に至る延長1400㌔のサイクリングロード構想があることから、海岸沿いのサイクリングコースを整備し、サイクルツーリズムの拠点とするのもよい。言うまでもないが、津波避難施設は必ず併設しなければならない。

 これらの内容は、2021年11月に中部地域づくり講演会(主催:中部地域づくり協会、共催:JAPIC)において発表した。今後も機会あるごとに提言を行い、由比地区の課題を皆さんと共有できることを願っている。


 筆者の松本伸・大林組常務執行役員は同社の土木本部生産技術本部長。JAPICの国土未来プロジェクト研究会が発表した提言の検討チームリーダーを務めた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年12月20日号掲載)

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