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労働力不足で食肉加工が大幅減  豪州農業、オミクロン株が直撃  NNAオーストラリア

2022.01.21

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労働力不足で食肉加工が大幅減  豪州農業、オミクロン株が直撃  NNAオーストラリアの写真

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の流行が、オーストラリアの食品小売業界に続き農業界に影響を与えている。畜産業界では食肉加工場の労働力不足により、先週までの今年の牛の処理頭数は10万4288頭にとどまり、前年同期の16万頭あまりから35%減少した(下のグラフ)。

 青果業界は果物を収穫しても労働力不足で出荷できないリスクが生じ、生産者に選択を迫っている状況だ。農業生産者団体は政府の対応を場当たり的と批判し、新たな提案を掲げている。

 ビクトリア(VIC)州でピーク時には最大1300人を雇用する食肉加工業ミッドフィールド・ミーツは、1月10日からの1週間のうち3日間、今週も19日までに1日の業務を停止した。従業員の多くがコロナに感染したか濃厚接触者で隔離を余儀なくされ、操業した先週金曜日の労働力は通常の25%、今週月曜日は15%だった。また、クイーンズランド(QLD)州の食肉加工大手も従業員150人が隔離に入り、通常2シフト制の業務を1シフトに削減、1日800頭の処理にペースを落としたとされる。

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 地元農業誌によると、食肉の生産量が減少したことで、輸出の契約をキャンセルせざるを得ない業者も出ているという。

 食肉加工処理数の制限による影響は、サプライチェーン各所で発生した。例えば▽牧草肥育牛に比べ適時性の高い穀物肥育牛が処理の遅れにより肥育場に留まり、肥育場の新規の牛の受け入れに制限が発生▽QLD州の輸出用大規模工場の委託(コンサインメント)レートが枝肉重量1㌔当たり0.3豪㌦(1豪㌦=約83円)下落▽肥育終了牛の肥育場での滞留で、去勢肥育牛への見積もりが急減▽日本や米国、韓国など主要市場からの注文が、現況に問題があれば他のサプライヤーに向かうか、他国に向かう傾向ーなどだ。

 現状はオーストラリア南部の食肉加工場が、北部よりもコロナ影響が深刻な状況という。だが南部の労働力不足は現在がピークか、近くピークを迎える状況とされているのに対し、QLD州はまだ悪化するとみられている。

青果生産コスト30%増


 VIC州ウェリビーサウスを拠点とするブロッコリーなどの生産企業ベリシャ・ファームズは、包装・出荷施設の従業員の50%が隔離されている状況だ。また、収穫が全くできない生産者もいることから、周辺ではスプリングオニオンの在庫が全くない状態という。このほかにも物流のトラックが数日遅れることもあるという。

 連邦・州政府が先週、サプライチェーンに対する圧力低減のため濃厚接触者に対する規制を緩和したことに関し、VIC州農業者連盟(VFF)青果部門は「サプライチェーンの問題は複雑で、一朝一夕で解決するものではない」とし、「生産者はオミクロン株発生よりも前に始まった労働力不足に影響を受け続けている」とした。

 一方でQLD州ボーエン・ガルム生産者協会によると、北部の青果業界の労働力不足はオミクロン株よりも国境・州境閉鎖が原因で、農場の投入コストは約30%上昇したという。同協会は「青果農家の利益率は10%から5%で、30%ものコスト上昇は吸収できない」と強調している。

 青果業界の昨年度の生産高は119億3000万豪㌦で、前年度の121億豪㌦からわずかな減少にとどまった。だが、労働者数は7.6%と大きく減少している。

 全国の青果業界団体オースベジのコート最高経営責任者(CEO)は「青果は販売期間が短く、サプライチェーンの混乱のリスクを最も高く受ける」と強調。「混乱が継続すれば、サプライチェーンを通じ農場から作物を入手できるか検討する企業が増える可能性がある」と述べた。

KFCにも影響の可能性


 一方、オミクロン株の穀物サプライチェーンに対する影響は軽微だった。生産者団体グレイン・プロデューサーズ・オーストラリア(GPA)は、「現在のところ穀物サプライチェーン全体で大きな混乱は生じていない」と発表。また、東部州最大の穀物輸出企業グレインコープも「コロナの影響は最小限に抑えている」とコメントした。同社は昨年度、自社サプライチェーンの効率性の高さが表れたと評価しているが、今年の収穫も好調だ。

 だが例外は、穀物の大口バイヤーの1社である鶏肉生産インガムだ。同社は声明で「工場の操業やロジスティクス、販売などに打撃を受けた」と発表。現在は「食品部門を対象にした政府の隔離規制の変更が、労働力不足の緩和につながると期待している」とした。同社の主要顧客のファストフードKFCも、自社サイトで商品が購入できない可能性があると告知している。

農業者連盟「事態の予想が重要」


 こうした新型コロナの混乱に関し、全国農業者連盟(NFF)は、業界、政府、労組、市民団体などで構成し、向こう1年程の事態を予想し対応を検討する組織の設立を構想・提案した。NFFは「迅速抗原検査(RAT)キットの不足はブラックスワン(予想困難だが発生時の衝撃が大きい事象)の好例」と指摘。こうした事象に場当たり的に対応するのではなく、各界の知見を持ち寄ることで、ブラックスワンに対し事前に対応することが重要と主張している。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 1月21日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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